Last episode 15
「そ、それで?その後はどうしたっていうんだよ」
晴信が、気持ち身を乗り出して瞬一に尋ねる。
瞬一は、一度黙った後で、
「その後……肩の傷について聞かれた俺達は、素直にそのことを言った。そして……」
「ボクのお父さんがそのことに心配して…仕事の関係も重なって、その数日後には、日本から出ることになったんだ」
「「「……」」」
晴信達は、黙り込んでしまう。
聞こえてくるのは、喫茶店の外で降っている雨が地面に落ちる音と、店内にいる別の客の喋り声のみ。
瞬一達は、しばらくの間声はおろか、音も発することはなかった。
「……あのさ、瞬一」
「ん?」
葵が、ここで口を開く。
「そんな話……本当はしたくなかったよね。私達に話してくれて、ありがとうね」
「いや、別にしたくない話ってわけでもなかったけどな……むしろ、いずれ話そうかと思ってたくらいだ」
瞬一は、本心を語っている。
そのことは、葵も春香も、晴信も理解出来ていた。
だから、そのことに関しては突っかかることはなかった。
「……何だか寂しい雰囲気になっちゃったね。ほらほら、もっと明るくしないと!」
そんな、まるでお葬式のような空気が漂っていることに嫌気がさしたのか。
織が、明るく取り繕っているのが分かった。
「……そうだよな。俺達にこんな空気は似合わねぇよな!」
「ですね。笑っている方が楽しいですしね」
つられて、晴信・春香の二人がそう反応する。
「……まったく、叶わないねぇ、お前達には」
「え?何の話?」
「なんでもねぇよ。俺のひとりごとだ、気にすんな」
「そう言われると余計に詮索したくなっちまうのが、人の性って奴じゃね?」
「んなことねぇよ」
さっきの話などまるでなかったかのように、瞬一達は会話が弾んでいた。
その表情は、笑顔。
曇り一つない、満面の笑みであった。
「だけど、そろそろ帰った方がいいかもよ?時間もいい所に来たみたいだし」
葵が、腕時計を見ながら瞬一達にそう告げる。
言われて瞬一も時計を確認してみる。
すると……。
『PM05:39』
確かに腕時計にはそう表示されていた。
「結構ちょうどいい時間になってるようだな……今日はそろそろ帰るか?」
「そうですね……あまり遅くなっても、暗くて道が分からなくなってしまうだけですしね」
「なにより……危ないからな」
瞬一が晴信達に尋ねると、真っ先に晴信と春香の二人が賛成した。
織も葵も、首を縦に頷かせて、肯定の意を示した。
「さて、それじゃあ勘定をしなければならないわけだが……」
「瞬一のおごりって言うのでどう?」
「晴信のおごりな」
「疑問形ですらない!?」
晴信の言葉を見事にスルーして、瞬一はそう言った。
さすがに晴信も、驚かずにはいられなかったようだ。
「ちょっと待ってくれ。俺は金欠なんだ。お金がないんだ。一人分……ってか、俺の飲み物代を出すのがギリギリなんだ……だから勘弁してくれー!!」
「……分かってるっての。自分が飲んだ分くらい自分で金払うって」
あまりに凄い剣幕で晴信がそう言ってきたものだから、瞬一もさすがに困惑していた。
財布の中から自分の飲み物分の料金を出すと、レジまで向かう瞬一達。
レシートを差し出し、それぞれお金を払う。
「ありがとうございました」
店員の営業スマイルを眺めながら、瞬一達は喫茶店を出て行った。
「お?いつの間にか雨がやんでるな……」
気づけば、雨はすでにやんでいた。
そして、大きな虹も見えていた。
「おお……綺麗だ」
「本当ですね……」
暫しその虹を眺めた後に、
「さて、家に帰ろうぜ」
「だな」
瞬一達は、それぞれの帰るべき所へ帰って行ったのだった。




