Last episode 13
「「……え?」」
男からのいきなりの言葉に、二人は思わずポカンとしてしまった。
そんな二人の反応を見て、男は面白そうに笑っている。
「お主は魔術の扱いがその年にしてはうまいと聞く……どうだ?我らと共に来て、この世界を滅ぼしてみようとは思わぬか?」
「世界を……滅ぼす?」
考えたこともないことであった。
織にとっても、瞬一にとっても、それはおよそ一度も考えたことのないことだった。
それほどまでに、絵空事のような提案だったのだ。
それほどまでに、自分達とは縁が遠い提案だったのだ。
「もちろん……断るよ。だってボクは、この世界が好きだもん」
「ほぅ……この世界を『好き』と申すか?なら……この世界の真実について知ったならば、共に来てくれるかな?」
「世界の……真実?」
男の言葉に、織が顔をしかめる。
構わず、男は話し始めた。
「この世界は……すでに『崩壊』している」
「崩壊してる……?こうしてこの世にあるじゃないか」
「物理的な意味ではない……精神的な意味で、だ」
男はそう前振りを述べた後で、
「この世界は……人間達の営みによって、その美しい姿を見事なまでに汚してきた。綺麗だった空気は汚れ、木々は地球から姿をなくし、そして人工的な建物が増える一方……かくいう私も、科学魔術というものを開発した者としては、この世界を汚したという意味では同じことかもしれぬな……この世界に、希望の光が差し込むことはあるまい。あるのは絶望の闇だ。この世界がこのまま進む道は……『自然消滅』。どうせ自然消滅するくらいなら、『再開発』の余地がある『崩壊』の方がよかろう?」
「「……」」
子供である瞬一と織には、その話の大半は理解出来なかったのかもしれない。
だが、これだけは分かった。
この人物は……世界を再生させる為に、一旦この世界を滅ぼそうとしているのだ、と。
「私の最初にして最大の、そして最後の願いだ……『この世界』を破滅に迎え入れること。それこそが、私が演出家として働く、最初で最後の仕事だ」
「……」
「どうだ?これでも私と一緒に来ぬか?」
「……断る」
織は一言、男に向かってそう告げる。
男は、顔をしかめて、
「何故だ……何故一緒に来ぬ?」
少し焦りがこもったような声で、織に尋ねた。
すると織は、隣にいる瞬一をチラッと見た後で、
「……ボクはこの世界が好きだから。瞬一君がいて、ボクの家族がいて、友達がいて……そんなこの世界が、大好きだから。もしこの世界が滅びたとしたら……みんなと会えなくなっちゃう。そんなの、悲しいよ……そんなの、寂しいよ。『再生』するという確証もないのに……世界を滅ぼすなんて言わないでよ!」
「織……俺もだ。俺もこの世界が好きなんだよ。俺にとって大事な人がいるこの世界が……俺は大好きなんだ。俺の隣で笑っている織がいる世界が、俺は好きなんだよ」
「しゅ、瞬一……?」
瞬一の言葉に、織は顔を真っ赤にさせる。
……瞬一のその言葉は、一歩進んでしまえば、告白とも聞こえない言葉だったからだ。
「……そうか。それでもこの世界が『好き』と申すか……ならば、この世界が嫌いになればよかろう?」
「……な、何を」
「この場で……三矢谷瞬一と言ったかな?君を……殺す」
「!?」
その時。
男から発せられた明らかなる殺気に、瞬一の体は思わず硬直してしまった。
初めて浴びせられる、殺気。
小学生だった瞬一の体の動きを止めるには、十分すぎた。
「じっくり焦らして……殺す」
「……じゅ、銃?」
突然右手に現れてきた銃を見て、瞬一はおろか、織までも固まってしまう。
そして男は、
「……さぁ、地獄の舞台の開幕だ」
ドン!
瞬一に向かって、その銃を、撃った。




