Last episode 12
数年前。
瞬一も織も、まだ小学生の時の話だった。
二人は幼馴染であり、行動する時はいつも一緒だった。
この日も、二人で街中を探検していた。
だが、天気は生憎の雨。
瞬一が差す傘の中に、織は入っていた。
「ちょっと……くっつき過ぎじゃないか?」
「えへへ……こうして近づかないと、ボクが濡れちゃうからね~♪」
「その割には嬉しそうだよな……お前」
瞬一は、隣にいる織の表情が明らかに笑顔なことに、正直ドギマギしていた。
どう言葉を返したらいいのか、瞬一は分からなかったのだ。
「とりあえず……何だか恥ずかしいんだけど……」
「気にしない気にしない♪」
二人を見る周りの目が、温かい眼差しとなっている。
それだけに、さらに瞬一は恥ずかしさを感じていた。
「しかし今日もいろんな場所を回ったよな?」
「本当だね……高校の校舎に忍び込んだり、裏山を見てみたり……本当に、いろんなことしたよね」
「正直俺達、いけないことしかしてない気がするけど……楽しかったからそれでいいよな?」
「もちろん!今日も楽しかったよ、瞬一君♪」
そう言って織は、瞬一の左腕に抱きついてくる。
「お、おい……そっちの手は傘を持ってるから……」
「大丈夫だよ。瞬一君はちっとやそっとのことじゃ傘を手放したりしないから」
「ある意味信用されてんのな、俺って」
瞬一は、織が笑顔でそう言ってきたので、思わずそんなことを呟いていた。
そんな、幸せなひと時。
前から続き、これからも続くと思われていたそんな幸せな時間。
「今日のことは親には言わない方がいいかもしれないな……きっついお仕置きが待ってそうだし」
「だね……それに、二人だけの秘密にしたいしね♪」
そんな冗談まで言い合える仲だった二人。
だが、そんな幸せな日々は……とある一人の男の存在によってブチ壊されることになる。
「……失礼。君達に話があるのだが?」
「え?俺達に?」
突然前から、謎の男に話しかけられる。
男は、黒いスーツに身を包み、黒い帽子を被っている、年にして40代の男だった。
瞬一にとっても、織にとっても、まったくもって面識がない男であった。
「ボク達に何か用なの?」
織が、男に不思議そうにそう尋ねる。
男は、そんな織の顔を見て、優しそうに笑う。
「ああ……君達の名前を、教えてくれないかね?」
「俺達の名前を?……どうしてそんなことを教えなくちゃならないんだ?」
瞬一は、疑いの眼差しを男に向ける。
男はひるむことなく、
「必要なことなのでね……教えてくれないか?」
「……三矢谷瞬一だ。それでこっちが」
「神山織だよ。おじさんの名前は?」
織がお返しと言わんばかりに、そう尋ねてくる。
すると男は、少し言葉を詰まらせた後で、
「……演出家とでも名乗っておけばよいか?」
「えんしゅつか……って人なの?」
「あのな織……『演出家』ってのは、職業のことだよ。よくテレビのドラマなんかの演出を担当したりしてるんだよ」
「なるほど!さすがは瞬一君、頭がいいね!」
「お前が知らない方が驚きだよ……」
瞬一は右手で頭を抱える素振りを見せる。
その後で、男に向き直り、
「それで、用はそれだけか?なら俺達は家に帰るけど……」
「用はもう一つあるのだよ……神山織、君にね」
「え?ボクに?」
そして男は、こう告げた。
「君を頂きに参上したよ……神山織」




