Last episode 09
「校長……それってどういうことだよ」
放課後。
瞬一達は全員揃って校長室に呼び出された。
案件は、先ほどのメルゼフの件について、だ。
「だから、メルゼフは元々死んでいたのだよ。数十年前にメルゼフ・グレイブスタンという男の死亡履歴も確認出来ておる……すなわち、メルゼフ・アイスバロンという王子ははじめから存在しなかったということになるな」
「あの時メルゼフが言っていた『生き返らせてもらった』って言葉は、妄言じゃなかったのか……」
実を言うと、瞬一はメルゼフの言葉の半分が、その時力を抑えられなかったが為に混乱していたから言っていたものなのだと勘違いしていた。
それが、どうだろう。
源三郎が言うには、そのことは本当のことらしい。
「つまり……とある人物がメルゼフさんのことを生き返らせて、そして何かの目的の為に利用した、と……」
葵が簡単にまとめた自分の意見を源三郎に言う。
一瞬黙りこみ、
「その通りだな」
そして源三郎は、そう言った。
「けど、そんなことって出来るんですか?仮にも死んだ人ですよ?……死んだ人を生き返らせる魔術なんて、今の世界ではありえませんよね?」
大和がその疑問を口にする。
確かに、この世界に人を生き返らせる魔術は存在しない。
そんな魔術が存在出来るのなら、人間は死ななくて済むし。
何より、傷を癒すことが出来ても、停止してしまった体の全機能を復活させることなどほぼ不可能なことだろう。
「うむ……問題はそこなのだ。どうやって相手はメルゼフを生き返らせることが出来たのか」
「やっぱり……そこが問題ですよね?」
織が付け足すように言った。
そこで、葵が提案を出す。
「悪魔の力と……何か関係があるのではないでしょうか?」
「悪魔の力……とな」
「はい。メルゼフさんは自らのことを『生きる屍』と称してましたし、変身した姿は、その……まるで本物の悪魔そのものでした」
「ふぅむ……その可能性も否定できぬな」
思案する源三郎。
やがて数分が過ぎた後で、
「悪魔の力を植え付けることで……メルゼフさんを復活させたとか」
ポツリと、春香がそんなことを呟く。
「悪魔の力を、植え付ける?」
その考えに至っていなかった真理亜は、思わず春香にそう尋ねた。
春香が答える。
「はい。悪魔の力の一部をメルゼフさんの体に植え付け、そして命を助けさせたんです……悪魔と契約する際には、命というものが絶対条件になりますから」
「なるほど……悪魔の契約を完了させる為に、自然と命が甦ったと……」
確かに、悪魔との契約の際には術者の命が絶対条件となってくる。
だからと言って、それがメルゼフの蘇生と関係があるのかは謎だが。
「とにかく、今は君達に言えることはただ一つ……くれぐれも無茶はするのではないぞ」
「分かっています……こっちだって、命は落としたくないので」
瞬一が、そう言葉を切り返す。
「ところで……アイミーの方はどうするんですか?」
「王女のことか……そのこと何だが、空港にてトラブルがあったおかげでな。王女とシュライナーを共に国に帰すことが出来ぬのだ」
「「「「なっ!?」」」」
驚きの新事実に、瞬一達は驚かずにはいられなかった。
「何でも原因不明の爆破事件があったおかげでな……グレイブスタン公国に繋がる唯一の空港が、全面封鎖という事態に陥っているらしい」
「そ、そんな……」
今の日本にいるよりは、自分の国に帰った方がはるかに安全だ。
そう考えていただけに、この事実は、瞬一達に重くのしかかったのだった。
「そこでなのだが……私達の学校で預かることになった」
「え?この学校でですか?」
「そうだ……この学校なら、結界を張れる場所もあるしな。何も処理も施されておらぬホテルなんかよりはよほどましな場所に入るだろう」
「……そうですね。それじゃあ、アイミーのことを、どうかよろしくお願いします」
「うむ……では、もう今日は帰ってもよいぞ。敵の襲来がいつ訪れるか分からぬから、くれぐれも用心はしておくのだぞ?」
「「「「「はい!」」」」」
瞬一達が、源三郎にそう返事を返すと、校長室から出て行った。
「……ふぅ」
源三郎は、自然と溜め息を漏らしていた。




