Last episode 08
「ふむ……やはり不完全な出来であったか」
某所にて、とある男がそう呟いた。
黒い服を身につけて、黒い帽子を被ったその男の名前は、スクリプター。
この世界を破滅へ追い込もうとする、いわば演出家だ。
故に、彼は舞台を面白くするような展開を用意しようとする。
「……スクリプター様、いかがいたしましょう?」
首から黒いペンダントをぶら下げた少女……黒石由良は、スクリプターを相手にそう尋ねる。
スクリプターは、特に困った様子を見せることなく、ただ事務的に言った。
「うむ……次の作戦といきたいところだが、如何せんメルゼフは無意味であったな。故に、もう一段階弾みをいれなければならぬ」
「弾み……ですか?」
「本来ならこのメルゼフの力と干渉させて、光の器の力を暴走させるのが目的だったのだかな……それもメルゼフの自我が残ってしまったが為に不可能となってしまった」
結果、メルゼフは帰るべきところに帰った。
故に、この作戦は実行不可能の物となってしまったのだった。
「そこで今回、ある特別な手を利用しようと思う」
「特別な手……ですか?」
「本来ならこの方法だけは避けたかったのだが……『あの女』を利用しようと思う」
「『あの女』……ですか?」
『あの女』。
スクリプターが言ったその人物のことを、由良は知らなかった。
だから、心当たりがないのも当然ともいえよう。
構わずスクリプターは話を続けた。
「『あの女』に連絡を取り、それなりの手で細川葵に眠る力を暴走させようと思う……ただし、成功するかどうかはわからぬがな」
「ところで……『あの女』というのは誰のことなんでしょう?」
耐え切れなくなったのか。
とうとう由良が、そのことについてスクリプターに尋ねた。
少しスクリプターは考えてから、言った。
「名前は知らなくてもよいだろ?……『あの女』というのは、細川葵が通う学校に忍び込ませている教師のことだ。『あの女』なら、間違いなく違和感なしに薬を作ることも出来るだろうな」
スクリプターは、何かを信用するように言う。
由良には、その根拠は分からなかった。
だが、反論は何も述べない。
スクリプターの言うことだから、間違いはないだろうと思っているからだ。
由良は、人のことを信じる癖がある。
人の目を見ることが得意な彼女は、確信した人のことはすぐに信じてしまう。
その結果、少女はその人物を失った時の悲しみをも増大させてしまうということだ。
そのことの現れが……クリエイターの件であったことを、少女は未だに分かっていなかった。
「それでは私は『あの女』に連絡を入れてくる……少々この場を空けるが、その間ここを空けても構わないし、留守番代わりにここにいてもらっても構わない……ここから先は、しばしの自由時間といこうではないか」
「……はい、スクリプター様」
由良は、スクリプターの言葉に頷く。
別段反論することでもなければ、むしろ由良にとっては自由な時間が与えられたという名目が立てられたわけだ。
これで反論する人と言ったら……よほど物好きな人物なのだろう。
「それでは……私はあの学校へ向かう。またこの場で会おう」
「はい……スクリプター様」
そして二人は、各々の行動をし始めたのだった。




