Last episode 07
「くそっ……いい加減目を覚ましやがれ、メルゼフ!」
瞬一達がいくらメルゼフに攻撃を仕掛けても、メルゼフは少しも目覚める気配を見せなかった。
悪魔の姿のまま、瞬一達に抵抗するのみで、元のメルゼフに戻る気配など微塵もなかった。
「どうなってるの?……一体この人は、何でこんなことに……?」
そもそも、メルゼフとは面識がない葵達には、メルゼフが何故こんなことになっているのかを理解することが出来なかった。
もちろん、その場に居合わせたシュライナーにアイミーン、瞬一も理由は分からないでいる。
だが、一つ引っかかっていることならあった。
「生きる屍……それの言葉の意味さえ分かれば、何かが分かるはず」
シュライナーは、誰に言うのでもなく、呟くように言った。
瞬一も同じことを考えていたのだが、それでもその言葉の意味の答えにつながることは出来なかった。
「分からない……ああもう!」
メルゼフは、鎌を使って瞬一達に攻撃を繰り出していく。
瞬一達は、それらを避けつつ、自らの武器で受け流しつつ、何とかその場をやりぬく。
「畜生、気が散って考えられねぇ……!」
「お、落ち着いてください!シュンイチ!」
混乱している瞬一に、アイミーンが言う。
その一方で、葵達は戦っていた。
「清涼なる水を纏いし我が精霊、その姿を現して自らの水にて彼の者の罪を癒せ!」
そして、葵は精霊召喚の詠唱を済ませる。
すると、葵の目の前に巨大な魔法陣が出現し、そこに大量の水を纏った精霊が現れた。
「アクア!あの人を水で流し込んでしまって!」
「ハァッ!!」
アクアと呼ばれた精霊は、両手を大きく広げて、周囲に小さな魔法陣を展開させる。
そしてそこから、大量の水を勢いよく噴出させる。
狙いはメルゼフ。
その水は、勢いが強い為でもあるのか、まるで矢のように鋭かった。
「キカヌ!」
それらをメルゼフは、鎌を使って破壊する。
だが、それでも防ぎきれない水の矢が、メルゼフの体に何回も突き刺さっていた。
「グゥッ!」
メルゼフの顔に、初めて苦味が浮かんでくる。
力が弱まってきているのもあるのか……メルゼフの体の動きは鈍くなってきているのが分かった。
「メルゼフ……今助けてやるからな!」
瞬一が、刀を握り、メルゼフに突っ込みながらそう告げた。
……だが、メルゼフが返した言葉は、およそ一同の予想を裏切るものだった。
「……コロセ!私を……私ヲこロセ!!」
「……え?」
「殺せ……?」
あまりにも正反対な反応に、瞬一達は驚きを隠せない。
構わず、メルゼフは言う。
「私は元々コノ世にイテハならナい存在なのダ……ダカラ、生かされても、再びコノようなスガたとナリ、そしてニドと戻れナクなッテしまウ……ダカラ、私をコノ場で殺せ!そうでナイと、完全にワタシの自我が失わレてしまウ!ワタシはワタしのままで死んでイキたい……だから、ワタシを、コノ場で殺せ!!」
「……どういうことだ?メルゼフ」
その場に止まり、事情を尋ねる瞬一。
メルゼフは、やっと話をするような状況で、言った。
「ワタシは全身を黒い服デ覆った男に生き返ラせてモラったノダ。その時にワタシは悪魔のチをいれらレた。だからワタシはコウシて悪魔に姿をカエテいる。だからコウシテ、自らの妹でアルアイミーンを殺そうとシテいる―――!!」
「私の……兄上?」
「ソウダ……十数年前、お前がウマレる前の話だ。私は些細なコトデ殺されてシマった……そしてそのナキがらを利用して、その男は私を復活サせたノダ。私はつい最近、ソノコトを思いダシタのだ……やっとワタシは、本当のコトに気づくコトガデキタノダ」
……まずい、と瞬一は思った。
このままだと、メルゼフは再びもとの姿に戻ってしまう。
そう感じた。
「時間がキテシマッタヨウダ……ワタシの自我がタモテナクなりそうだ……三矢谷瞬一、ワタシを殺せ……そして、ワタシをこの世の因縁から解き放ってくれ―――!!」
「…………分かった。今、楽にしてやる」
そう呟くと、瞬一は、自らの刀を握る両手に力を込める。
そして、ありったけの力を使って、
グサッ。
瞬一の刀は、メルゼフの腹部を確実に捉えた。
そしてメルゼフは、最後にこう告げたのだ。
「……ありがとう」
そのままメルゼフの体は、粒子となって消えていった。




