Last episode 05
「おいおい……これはなんて冗談だ?」
大地が、呟くように言った。
目の前にいるのは、およそ人間の形をしていない。
例えるなら……そう、悪魔そのものだ。
「何でメルゼフが悪魔の格好を……?」
「『生きる屍』……確かメルゼフは前にそう言われたと言っていた」
瞬一は、思いだすかのように言った。
確かに、前にメルゼフは、頭の中にいる悪魔より『生きる屍』と称されたことがあった。
それと今回のこの姿の変貌と、何か関係があるのだろうか?
「そう。生きる屍……彼の者は、すでにこの世からいなくなっている存在。それをわざわざ私が闇から引きずりだしてきたまでの話だ」
「「「「!?」」」」
そして、さっきまで聞こえなかった男の声が、この場に響き渡る。
一瞬にして、空気が硬直する。
瞬一達は、その声がどこから発せられたものなのかを探し回るが、その姿を見つけることは、ない。
「何せ私はこの場にいないのでね……この者の体を介して話をしているだけの話だ」
「……あなたは一体、何者なんですか?」
春香が、メルゼフの体を利用して話しているだろう男に尋ねる。
もしこの男が目の前に現れていたのなら、この場において笑みを浮かべていることだろう。
やがて男は、こう答えたのだった。
「私はこの世界を破滅の道へと向かわせる……言わばこの世界における演出家とでも名乗っておくべきか?」
「演出家……だと?」
聞きなれない単語に、思わず瞬一は目をしかめた。
それでも、男の声は愉快そうだった。
「ハッハッハッ!その反応おおいに結構!私としてはその反応こそが、欲しかったものなのだからな」
「……貴方は、クリエイターと関連はあるのですか?」
大和は、冷静に言葉を発する。
そんな大和の態度に、男は少し気分を悪くしたのだった。
「……驚かぬか。そんな輩もこの世界にはおるのだな……よかろう、その質問に答えてやろう。答えは、関わっていて、関わっていない、だ」
「ど、どっちなんですか……?」
複雑な物言いをする男の言葉に、春香は思わず尋ねてしまう。
「そのままの答えだ。私とクリエイターの行く先は同じ。故にその点のみでいえば私とクリエイターは関わりがあった。だが、私とクリエイターでは方法が違う。おまけにクリエイターとなど一度も話したことはない。故に、関わっていないとも言うべきだ」
「なるほど……目的が世界の破滅って意味では同じってことだね」
誰にも聞こえないような小さな声で、織が呟く。
そのはずだったのに。
「ああ、そうだとも。私の目的はさっきも言ったが世界の破滅……何せあの少女とそう誓いを交わしたのでね。必ず成功させなければならぬ」
「!?……あの少女?」
その言葉に、瞬一はハッとした。
もし自分が思っている通りの少女なのだとしたら、そこでまた関連性が生まれるかもしれない。
そんな期待を持って、瞬一は尋ねた。
「その少女は、首から黒いペンダントをつけていたか?」
「……つけていたが。それがどうかしたのかね?」
「やっぱりか……」
そして、その関連性が明らかになった。
同時に、こんな推測も立てた。
恐らくクリエイターと別れて行き場を失っている先に、この男と出会ったのだと。
「……話しはこれまでにしよう。後はこの悪魔と自由に遊んでいてくれ。グレイブスタンの名前を冠する予定であった……メルゼフ・グレイブスタン……アイミーン・グレイブスタンの兄と、な」
「えっ!?」
男の言葉に、アイミーンはすかさず反応する。
だが、男はその後は何も告げることはなく、そのままメルゼフの中から消えてしまった。
「……オ、オオ……」
「……とにかく今は、メルゼフをどうにかするしかなさそうだな。みんな、やるぞ!」
「「「……!!」」」
瞬一の言葉に反応するかのように、葵達は構える。
そして、戦いの火蓋は切って落とされた。




