不穏な空気
「……大変な一日だったな」
「そうだなぁ……結局、クリエイターの出現のおかげで、大会は中止。瞬一の優勝も流れる羽目になったってわけか……」
「残念でしたね……瞬一君」
俺達は今、会場から帰宅している最中だ。
クリエイターが出たおかげで、会場は大パニック。
加えて、葵の力の暴走。
これらの条件が重なり、とうとうこの大会は中止ということになったのだった。
俺の優勝は……形だけ残るというなんとも異例な事態が起きたということだ。
「……ですが、葵先輩が未だに倒れたままなんて」
「何があったのかしら?」
優奈と刹那が、葵のことを心配するように言う。
実は葵は未だに体調が優れていない為、先に帰らせたのだ。
もちろん、葵の家に電話して、親に迎えに来てもらったってことだ。
「けど、岸辺がまさかそんなことをしていたなんて……しかも、クリエイターに操られて、か」
「……ええ。聞いたことある名前だと思ったけど、まさか本当にそいつが私達の両親を殺した犯人だったとは思わなかったわ……悔しいけど、その本人は途中で逃げ出したみたいだし」
刹那が言う『本人』とは、恐らくクリエイターのことをさすのだろう。
岸辺自身に罪はない。
ただ無作為に選ばれただけの人材なのだから。
「けれど、クリエイターの目的が、俺達の魔力を奪うことだったとはな……」
「……」
本当の理由を、俺は晴信達には隠していた。
理由は……葵の力のことも説明しなければならないからだ。
このことに関しては、今俺の口から言うべきことではないだろう。
時期が来るのを待とう……どの道俺の口から話すことになるのだろうけど。
何せ、葵自身は自らに備わっている力に気づいていないのだから。
「しっかし、あの魔物もあの男の差し金だったとは……」
「本当、大変だったわね」
啓介と小山先輩が話すのが聞こえてくる。
……本当に仲がいいな、この二人。
あ、晴信が啓介のことを嫉妬のまなざしで眺めている。
で、刹那が晴信のことを寂しそうに眺めている。
……なんだか見ていて面白いな、この構図。
「結局俺は、何の見せ場もなかったじゃねえかよ!」
「知るかよ……とりあえずお前は、もう少し魔術を使いこなせるようにしておけ。そうすれば、戦いにおいても勝つことが出来るからよ」
天に向かって叫ぶ小野田に対して、とりあえず俺はそうアドバイスを入れる。
すると小野田は納得したような表情を見せて、
「明日から特訓だ!」
とか言ってる。
元気だねぇ……コイツは。
「さて、俺はよるところがあるからこっちの道行くから」
「あ、そうなの?それじゃあまた明日ね、瞬一君」
俺はみんなにそう言うと、別の道を歩く。
……なんとなく一人になりたくて、そんな言い訳をしてみたけど、織はあっさりそう言ってきた。
織がそんなことを言うものだから、
「じゃあね、瞬一先輩」
「明日また部活で会いましょうね」
「またな、瞬一!」
「明日会おうぜ!」
「教室で待ってます」
「帰り道には気をつけてね」
刹那・優奈・晴信・啓介・春香・小山先輩の順番で声をかけられる。
ちなみに、小野田は叫びながらどこかに走り去っていった。
「……ふぅ」
ひとまずみんなから離れると、俺は溜め息をつく。
「クリエイターの目的……そして、地下にいた謎の少女」
俺の頭の中に残るのは、一人の少女の存在だった。
あの少女は、一体なぜクリエイターと手を組んだのだろうか?
目的は『世界の破滅』といった。
ならば、なぜそんなことを目的としている?
「……分からない。全然分からない」
分からないなら、考えるだけ無駄だろう。
けれど、この問題だけは、どうしても解決しなければならないような感覚に陥っていた。
何だか……これだけでは収まらないような、そんな気がした。
「これから先、一体どんなことが起きるんだろうか……」
考えただけで頭が痛くなる。
何だか嫌な予感を抱えながら、俺は帰り道を歩いていたのだった。
時は満ちた。
すべての計画を始動する時が来た。
世界はやがて闇に呑まれ……地に堕ちた天使は、やがてその内なる力を抑えきれなくなり、この世を破滅へと追い込むだろう。
さぁ、足掻くがいい、愚かな人間共。
私はこの世界を作り変える者なり。
私の力を以って、この世界を再び『無』に帰すとしよう。
それこそが、私の持つ最初にして最大の、望みなのだから。
Last episode
Are you leady?
そんなわけで、次回より『Last episode』が始まります。
どうかご期待ください。




