力の暴走
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「あ、葵……?」
背中から光の羽を生やした天使は、苦しそうに叫んでいた。
……内なる力の解放に、追いついていけてないのか?
これが……光の器の、隠された力。
光が……あの時モテラスが使っていた物とよく似ているか、それと同じだ。
ということは……この力はうまくいけば自分で何とかすることも出来るのかもしれない。
けど、まずは苦しんでいる葵を、解放してやらないと―――!!
「葵!今助けてやる、待ってろ!」
そう声をかけるが、葵の耳には届いていないらしい。
返事は、する暇がないのか、意図的にしなかったのか。
どちらでも構わない……今は暴走している葵を何とかするんだ。
このままだと、葵も俺達も全員がやられちまう―――!!
「けどどうすれば……」
いくら力が解放されてきているといっても、まだ不完全だ。
背中から生えている羽が、時折消えかかっているのがその証拠だ。
気絶させれば……なんとか収めることが出来るだろうか?
「やってみるしかねぇ……すまない、葵。お前の体に傷をつけるのは何だか心苦しいけど……お前の為なんだ、許してくれ」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
刀の峰の部分を葵に向け、観客席から戦闘スペースまで飛び降りる。
ダン!
激しい地面との衝突音と共に、足に響き渡る、振動。
いてぇ……けど、この痛みがなんだ!
俺の目の前には、もっと強大な苦痛に耐えている葵だっているんだぞ―――!!
「こい、葵!俺は必ず、お前を助けてみせる!」
「!!……アア!」
「!?」
叫び声にも近い葵の声と共に、上空に無数の魔法陣が展開される。
……ちょっと待て、この数は半端ないぞ。
数えきれない……少なくとも、100はとっくに超えているぞ―――!!
「で、デタラメだ……こんな攻撃をされたら、一発でこの建物が崩壊しちまう!!」
葵は、その魔法陣すべてに魔力を送り込んでいる為、その場から動かない。
……今がチャンスだ、葵を止める!
「たぁっ!」
葵の鳩尾めがけて、俺は刀の峰の部分で斬りかかる!
だが、それに気付いた葵が、一旦魔法陣に魔力を送り込むことを中断して、俺に光の弾を放出してきた。
軽く弾丸と同じくらいのスピードで放たれたそれは、俺の左肩を貫通した。
「!!」
言いようもない痛みが、俺の左肩に走る。
くそっ……距離を取るしかない。
刀なんて甘い考えはなくせ。
今の葵には……軽い攻撃は通用しない。
「けど、葵を傷つけたくはない……くそっ!」
暴走を止めるには、相当強い力の魔術を使用しなくてはならない。
だけど、そうすると葵に傷を負わせてしまうのは絶対条件だった。
……無理だ、傷を負わせずに葵を救出することは、無理だ。
「クリエイターの奴め……最後にこんな置き土産していきやがって!!」
ここにはいないクリエイターに対して、俺はそう悪態をつく。
こうしている内にも、葵は魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる。
「……やるしかない。みんなの為にも、葵の為にも……お前の暴走、止めてみせる!!」
叫び声と同時。
俺の足元に、雷を帯びた魔法陣が出現する。
俺はそれと同時に、呪文を詠唱した。
「我に抗う者に、神より賜りし聖なる矢にて、彼の者に静かなる目覚めを与える……力を収め、元の体に戻れ!」
すると、俺の目の前には、弓と矢が同時に出現する。
雷を帯びた矢が、何本も現れてきた。
「……御免、葵」
「ア、ア!!」
葵に標準を向ける。
何本もある矢を、一斉射出する―――!!
「スパークロア・コンティニュアル!!」
俺の放った雷の矢は、葵の体に確実に突き刺さる。
そして……そこから葵の体に、電撃が走る。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「……御免、葵」
葵はそのまま、電撃を浴びせられたショックで、その場に気絶した。
……背中に生えていた翼は、いつの間にか消えていた。
よかった……葵の暴走を止めることが、出来た……。




