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Magicians Circle  作者: ransu521
魔術格闘大会編
256/309

身を引く脚本家

Sideクリエイター


クリエイターは、まさかの展開に驚いていた。

自分の脚本通りに進まなかった、最初で最後の展開。

それが、葵の力の……不完全ながらの覚醒であった。


「私は、光の器(てんし)の力を吸収しようとしていただけなのに……それが逆に、その力を呼び覚ます結果になろうとはな」


こればかりは、彼にも予測出来なかった事態だった。

……あまりに急な事態展開だった為、例の少女を迎えに行くことすら忘れていた。


「いけない……私としたことが。あの少女を地下に置いていったままではないか」


名前も知らぬ、少女。

だというのに、互いの利害が一致したという理由だけで、クリエイターはその少女と組んだのだ。

両者に共通する目的は……『この世界の破壊』。

方向性は違えど、破壊という目的に関しては同じだった。

故に、これからの計画においても、少女の存在は必要不可欠なもの。


「……仕方ない。一度あの闘技場に戻るとしよう」

「それは無理な相談だね、脚本家クリエイター。お前はここで、死ぬのだから」

「……む?」


その時、聞こえてきた少年の声。

透き通る少年の声には、明らかなる殺意が込められていた。


「その声は……『組織』の者だね?」

「正解だ……僕の顔を忘れたとは言わせないよ?」

「分かっているとも……大和翔。それに、森谷大地の姿もあるな?」


物陰から現れる、大地と大和の二人。

二人の手には、すでに武器が握られていた。


「……どうやらすべての顛末を知った顔をしておるな?」

「会場内に『組織』のスパイが潜んでいてね。彼からすべてのことは聞かせてもらったよ……あんな理由で、森谷の両親が……そして僕の両親が殺されたことも、ね」

「テメェ……あんなつまらない理由で、俺の両親を殺しやがって……人の命を何だと思ってやがるんだ!!」


冷静に物を言う大和と、逆上する大地。

しかし、二人は今、確実にクリエイターに向けて殺気を放っていた。


「しかし、君達二人で何ができると言うのだね?……『組織』からの命令だと、恐らく私の野放しを命令されているはずだが?」

「それがね……さっきの光の器(てんし)の力の、未完全ながらの解放が原因でね……事態は急変したんだよ。『組織』から下された命令は……クリエイターの即刻抹殺」

「そこで、俺達がテメェの前に現れたってわけだ」


説明口調で、大和が言う。

しかしクリエイターは、動じずに、こう言った。


「だが、君達二人では私に勝つことは出来ぬ……仮に『組織』の人間といえども、果たして私の脚本通りに進むこの舞台に、幕を下ろすことは出来るのかな?」

「バカだね……カーテンコールはおろか、お前にはもうスポットライトすら当たっていないというのに」

「何?……!?」


クリエイターの表情は、一瞬驚愕のものへと変わる。

……いつの間にか、自身を取り囲む『組織』の人間達。

それぞれが、武器をクリエイターに向けていた。

明からなる殺意が、やはりクリエイターの体を射抜く。

そこには……同情の念などどこにも存在し得なかった。


「……そうか。私の舞台は、もう幕を下ろしていたということか」

「アンコール公演はない……正真正銘、これで最後の公演だ、クリエイター」

「……最後の私の舞台にしては、実に費用がかかった演出だな。君達にしてはよくやったのではないか?」


クリエイターは、先ほどの一瞬以外、その余裕そうな笑みを崩すことはなかった。

だが、心の中は……穏やかではなかった。

どう足掻こうが、これから先自分にやってくるだろう結末は……死。

すなわち、彼の脚本家としての生命は、ここで絶たれるということにも繋がった。


「……私の人生ものがたりも、ここまでということか。長いようで、短かったなぁ……まぁ、私がいなくなったとしても、あの少女がなんとかしてくれるだろう」


未練はない。

後悔はあった。

……クリエイターは、静かに目を閉じて、これから自分に襲い掛かってくるだろう真実ものがたりを、その体で感じることにしたのだった。












その日。

この世界ぶたいから。

脚本家クリエイターは、その身を引いた。













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