記憶
「あ、あれは……」
晴信は、戦闘スペースに広がっている魔法陣を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
だが、それよりももっと驚くべきことが起きた。
「……魔物が、消えていく?」
「……瞬一が倒したのか?けど、そうだとしてもあの魔法陣は……一体……」
分からないことだらけであった。
晴信にとっても、ほかの人達にとっても、分からないことだらけだった。
「何なの、これ……?」
葵達も、魔物と戦い終えてようやっと気づいた。
足元に突然現れた、巨大な魔法陣。
その正体が、全然理解出来ないでいた。
「ふむ……やはりあの少年は、魔物の親玉を追って行ったか」
「!?……この声は」
晴信は、会場に響き渡った男の声を聞いて、はっとした。
それは晴信だけではない。
葵や春香も同様であった。
何度か聞いた覚えのある、男の声。
特徴的な、口調。
それらから割り出すと、その男の正体は……。
「ようこそ。惨劇の宴へ。今宵も脚本・演出共に、私クリエイターがお勤め致します。どうぞよろしくお願い致します、人間達」
「お前は……クリエイター!!」
黒い帽子。
黒いマント。
自らを『脚本家』と称するその男の名前は……クリエイター。
この舞台を作り上げた張本人であり、今回の事件の黒幕的存在。
「前にお前とは会ったな……あれは確か森の中での話だったよな!」
空中に浮いているクリエイターに若干の驚きを感じつつも、晴信はそう告げる。
すると、クリエイターは何かを思い出したかのような表情をして、
「ああ……君はいつぞやの駒だったな。あの時は君に迷惑をかけて済まなかったな」
「調子乗ってんのか?……ここからならテメェを撃ち抜くことも出来るんだぞ?」
銃口をクリエイターの頭に向けながら、晴信はそう言った。
啓介達もまた、警戒の色を見せていた。
そんな会場内を見て、満足そうにクリエイターは言った。
「いやぁここまで脚本通りに進んだ舞台も久しぶりなものだ。今日は気分がよいな」
「……何を、言っているのですか?」
気分をよくしているためか、笑みさえ浮かべているクリエイター。
そんなクリエイターに対して、優奈はオズオズと尋ねた。
「……お主達は私が記憶を奪った者達か。ちょうどよい、もはやあの記憶など必要なくなったところだ。返してやろう」
「……記憶?」
クリエイターの言葉に、刹那が疑問の表情を浮かべる。
そんな刹那をニヤリと笑みを浮かべながら一瞥すると、両腕を突き出して、握っていた拳を開く。
するとそこには、二つの玉が浮かび上がっていた。
「あれが……二人の記憶の、玉」
岸辺は、誰に対して言うのでもなく、ただそう呟いていた。
その表情は、どこか悲しそうにも見えた。
まるで、何かを思い出して欲しくないかのように。
「……行け、記憶の光よ」
クリエイターがそう告げると共に、浮かび上がっていた記憶の玉が、優奈と刹那目掛けてゆっくりと動き始める。
やがてその玉は、二人の頭の中に吸い込まれて、その姿を消した。
「「……??」」
二人は、いや、周りにいた全員が、一体何が起きたのかを理解することが出来なかった。
ところが次の瞬間。
「……ウワァアアアアアアアアアアアアアア!!」
「「「「!?」」」」
優奈が突然、その場に踞り、泣き始めたのだ。




