親玉
しかしコイツらは、本当にウザイことこの上ないな。
向かう所に必ず配置されていやがる。
親玉は、一体どこにいるって言うんだ?
「くそっ!斬っても斬っても増殖しやがって!」
たちの悪い部類の魔物だよな……本当に。
これじゃあ、団体戦の決勝戦は延長だな。
中止って可能性もなくはないけど、出来れば考えたくないところだ。
「次から次へとウジャウジャと……ウザイんだよテメェら!」
力任せに刀を振るう。
尚且つ走らないといけない。
これじゃあ親玉のところに到着する前に力尽きてしまうぞ……。
「この……舐めんじゃねえ!」
近付く魔物は、残らず斬る。
そして、前へ進む。
やがて俺は、階段へと到着していた。
ここを下った先に親玉がいるかは分からないけど、迷ってる暇はない。
「くそっ!」
俺は二段飛ばしで階段を降りる。
結構奥まであるんだな……まだ下りきらないぞ。
ようやっと階段を下り終えた時には、いつの間にか上は遥か遠くになっていた。
「……前へ行くしかないな」
今更戻るなんて不可能。
ならいっそのこと、この部屋を確認するだけの価値はある。
俺の目の前には、何の部屋かも分からないような扉があった。
ここに何があるのかは分からないが、何かはありそうだ。
「……よし」
扉に触れ、一旦間を置いた後に、扉を勢いよく開けた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「!?」
同時に謎の生物の咆哮が聞こえてきた。
……ビンゴ。
親玉は、この部屋にいたということか。
体長約5m。
全身は黒く、鋭い爪を持った、虎みたいな魔物。
……コイツ相手に一人で勝てるのか?
「……いや、勝てるかじゃないよな。勝ちにいくんだよな」
勝てるか勝てないかを考える前に、まずは自分が勝つ為のプロセスを考えるのが先だ。
さっきまでの戦いの中で、勝つことだけしか考えていなかったのを忘れたのか、俺!
「……行くぞ、親玉。お前を倒して、この騒ぎを収めて……」
「そうはいきませんよ。この騒ぎを、こんなにも早く収めさせるわけにはいかないんです」
「……え?」
声がした。
どこからしたのかは分からないけど、間違いなく少女の声が響き渡った。
この空間のどこかに、少女がいるというのか……?
「ウガァ!」
「くっ!」
迷っているうちに、俺は魔物に襲われかけた。
何とか鋭い爪が体に突き刺さるのは避けたけど、もう少し判断が遅れてたら心臓に突き刺さってただろうな……。
「誰かそこにいるのか?いるなら返事をしろ!」
「……」
返事はない。
だが気配は確実に感じられる。
どこだ……どこにいる?
「あらゆる者に闇の苦しみを味あわせよ」
「!?」
投げ掛けられる呪文。
放出される、黒くて小さな弾。
俺はそれらを避けたと同時に、飛んできた方向を確認した。
……そこにはこっちに銃口を向けたまま立っている少女がいた。
漆黒をイメージさせるほどのロングヘアー、低めの身長。
しかし、殺気は半端ない。
なにより特徴的なのは、首からぶら下げているネックレスみたいなものだった。
禍々しい程の黒で着色された、宝石のようなものが埋め込まれていた。
少女が尋ねる。
「どうして……ここが分かったの?」
「分からなかったんだ……だから勘を頼りに走り、そしてここにたどり着いたというわけだ」
本当に分からなかったのだから、これは本当の話だ。
「……なんてデタラメな男なの」
「デタラメで結構だ……それよりも、この騒ぎを引き起こしたのはお前か?」
俺は少女に尋ねる。
少女は、特に迷う様子もなく、ただ真実を伝えるかのように、
「……ええ、そうよ」
その一言だけを、言い放ったのだった。




