動き始める闇
Side???
「では、例の計画を実行するというのですか?」
「……そうだな。だからこの大会に忍びこませたのだ」
会場裏。
とある男女が、なにやら怪しげな会話を繰り広げていた。
「けど……ばれないですかね?」
「大丈夫だ。この会場にはお主みたいな高校生しかおらぬ。すなわち、違和感などどこにもないということだ」
少女は、漆黒の闇をイメージさせるような黒のロングヘアー。
身長はその歳の女子の平均並みの背の高さ。
そして何より特徴的なのが、首からぶら下げているペンダントだった。
それは禍々しい黒の玉が埋め込まれたペンダントだった。
何を思って少女はこのペンダントを首から提げているのかは不明だ。
しかし、何も事情もなくこのようなものをぶら下げているとは到底考えにくかった。
「それにしても……本当にこの計画を実行するのですか?」
「当然であろう?そのために我々はここに侵入したのだからな」
「……やめませんか?世界を一度破滅に導くなんてこと」
「何で今更そんなことを言うのかね?」
男は不敵な笑みを浮かべて少女に尋ねる。
少女は、若干ためらいがちにこう答えた。
「何だか……怖くなってしまいまして……これから私達が世界を破滅させようとしているなんて考えると、それだけで全身の震えが……止まらないんです」
「ほう……この世界に呆れたので、世界を壊そうと提案したのは君じゃないか」
「……ええ、確かに私達は偶然出会い、そして偶然目的が同じでした。私は世界を見捨て、貴方様は世界を変えようとして、この世界に一度破滅の道を歩ませることを決意しました……ですが、本当にそれで根本的な解決になるのか、疑問が湧いてきたんです……」
「なるほどな……確かに、そうかもしれぬな」
そう少女の言葉に肯定の意を見せながら、その後で、
「だが、私はこう考える……私達は世界を永久的に壊すのではない。創りかえるのだと」
「……それは分かっています。世界を一度闇に飲み込ませ、そしてその先の新たな世界の誕生の時を待つ……それこそが私達の目的。私の本来の目的とは少し違いますが、『この世界の破滅』という目的とは同じだから、貴方についていくことにしました」
「……なら、反論する部分がどこにあると言うのだね?」
質問口調だが、しかし強い感じで男は尋ねる。
少女は戸惑いながら、
「……いいえ」
反論する意思はないということを男に見せた。
「それでよい。それでよいのだ……」
「……けど、この方法をとるのは、私にとっては少し心が痛みます……」
「どの道崩壊する世界だ。この場にいる人がどうなろうと、私達には関係のないことであろう?」
「……そうですね」
納得はしていなかった。
しかし、理解はした。
なので少女は、男の言葉にそう答えるしかなかったのだ。
「……それでは、そろそろ作戦決行の時間となった。君の頑張りによって、今後の私達の動きが決まってくる……是非主役としての活躍ぶりを見せてくれよ?」
「……可能の限り、全力でこのお役目、果たさせて頂きます」
少女は戦闘スペースの方へと歩いていく。
対して男は、そのまま建物の中へとどんどん消えていく。
「……待ってください!」
「……何だね?」
その途中で、少女は男を呼びとめた。
男は特に感じるものもないらしく、迷惑でもなく、呼びとめられたことが嬉しいわけでもなく。
ただ、事務的に体を少女の方へと向ける。
少女は最後に、男にこう尋ねた。
「……貴方は一体、何者なんですか?」
「何者も何も、私は君と同盟関係を結ぶ者だが?」
「そうではありません……貴方の本当の正体は、何者なんですか?私は貴方と出会ってから、そのことをまだ一度も聞いたことがありません」
「……そうであったな」
男はマントを翻し、少女とは反対方向を向いて、建物の中へ消えながらそう告げた。
「私はただの、世界の破滅までの脚本を描く、脚本家だよ」
そして事態は、静かに動き始めたのだった。




