決勝戦始まる
……よし、心は落ち着いた。
後はここを通り抜ければ、決勝の舞台に上がることとなる。
俺が目指すべきは……優勝のみだ。
勝つんだ……俺は、相手に勝つんだ。
「……行くか」
呟き、ついに俺は会場の中に入った。
「「「「ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」
「お、おお……」
あまりの熱気の強さに、一瞬怯みかける。
しかし、気合いでなんとか持ち直すと、俺は中央まで歩いていく。
……何もない、ただの床を歩いていく。
準決勝の時まであった仕切りは、その姿を消していた。
出し入れ自由なのか、岩すらもなくなっていた。
「……アイツが、俺の対戦相手か」
反対側から、俺の対戦相手だと思われる人物が入ってくる。
赤くて長い髪、俺と同じくらいの身長、そして何より気になったのは、こんな場所だと言うのに、イヤフォンを耳につけながら入ってきたことにある。
一応全国一を決める大会の場だぞ。
あんな姿で入ってきていいのだろうか。
「イヤフォンが気になるのか?」
「え?」
突然男の口から発せられた言葉。
……何を言い出すかと思えば、そのことか。
確かに気になることではあるけどな。
「ああ……そうだな。気にならないと言ったら嘘になる」
だから俺は、そう言葉を切り返した。
すると、
「別に俺は、空気を読まないでこんな格好をしてるわけじゃない。俺はMP3プレイヤーを使った科学魔術師だから、こんな格好をしてるんだ」
「なるほど……」
科学魔術師で、MP3プレイヤーを使う奴だっているだろうな。
最も、その数は少ないみたいだけど……操作は簡単そうなのにな。
「いや、これが結構難しいんだぞ?ボリュームのところで使用魔力量が決まってくるからな……これの調整をミスると、それだけで術の威力が狂っちまうからな」
「……なんでまたMP3プレイヤーなんてものを使ってるんだよ?」
「それは……その方が楽しいからだ」
うん、わかった。
コイツ、ただの戦闘狂だ。
戦うためなら条件とかは選ばない。
そんな奴なんだ、きっと。
「ところで……雷山塚高等学校といったら……植野優奈・刹那がいるはずだよな?」
「うん?……ああ、今日もこの会場にいるけど?」
「……そうか」
「何か言っておくこととかあるか?何なら俺が伝えてくるけど?」
「いや、なんでもない……気にしないでくれ」
「??」
何だろう。
この男の発言は、妙に引っかかる部分があるんだよな。
優奈と刹那と、何らかの関係があるのかもしれないな。
「けどよ、優奈と刹那は、お前のことを忘れているようだぜ?えっと……」
「岸辺隆太だ。さっきもコールされた気もするけどな……」
そういえばそうだったな。
えっと……岸辺は植野姉妹とは何の関係があるのだろうか?
「そうか……あの二人は、俺のことを忘れてるのか」
「……ああ、お前の記憶だけを忘れているみたいだったぞ?」
「……仕方ないんだよな。それは」
「仕方ない?」
「……なんでもない。今は勝負だ」
……なんだろう。
このモヤモヤとした感じは。
心の奥に、何かが引っかかっているような感覚があるんだよな。
「……んじゃ、距離をとるか」
「……ああ」
互いに微妙な空気が流れる中、俺と岸辺は距離をとる。
同時に、辺りには岩やら穴やらのギミックが出現してきた。
……なるほど、予選から決勝までで、ステージのギミックとかが変わる形式なのか。
「今はこうして、強い奴と戦えることに対して、心から楽しいと思ってる!……この勝負、悔いの残らないようにしようぜ!」
「ったく、この戦闘狂が……言われなくてもそのつもりだっての!」
「いや、お前の戦いぶりとか見てたけど、お前もなかなかの戦闘狂だろ!」
「どうだかな!」
戦闘狂ではないとは思うけど……まぁ嫌いってわけではないかな。
どっちかといえば、体を動かすことは好きな方に入るわけだし。
『それでは両者構え!』
「……んじゃ」
「そろそろ……」
実況席から聞こえてくる声に合わせて、俺達は構えを取る。
そして。
『始め!!』
「「勝負だ!!」」
実況の声に被さるのではないかと思われるほど大きな声で、俺達二人は戦いの開幕を宣言した。




