気になる記憶
「ご苦労様、二人共」
「興奮する試合でした……思わず声が出なくなってしまうような」
帰ってきたと思ったら、葵と春香にそんなことを言われた。
いやぁ、正直やっている俺達も興奮してたんだけどな。
「瞬一先輩も凄かったけど、晴信先輩も負けず劣らずって感じだったわね……」
「お前、いつの間にそんなに力をつけていたんだな」
今度は刹那と啓介が、晴信にそんな言葉を投げ掛けた。
晴信は答える。
「俺も頑張らなきゃなと思って、勉強も魔術の格闘も頑張ってたんだよ……結果としては、また瞬一に負けたけどよ」
「今回俺が勝てたのは、運のよさもあったおかげだ……お前の攻撃を一回でも受けていたら、俺は間違いなく準決勝敗退だったろうな」
晴信の力は、最早数ヶ月前なんか比じゃない程に強くなっていた。
……後は学力さえつければS組に戻ってこれるのではないだろうか。
「これからもその努力を忘れないことだな。一度でも訓練を怠ったら、取り戻すのには時間がかかるって言うし、毎日続けることが大事だ。勉強も、戦闘訓練もな」
俺はそう信じていた。
……毎日欠かさず訓練を積み重ねていけば、力がつく筈だ。
そうしてついた力というのは、しばらくの間抜けることはないだろう、ということも。
「……肝に銘じとくぜ、我が友よ」
「そうしてくれると嬉しいぜ、我が親友にして好敵手よ」
「「……へっ!」」
パン!
俺達はそれぞれの右手でハイタッチをして、互いの健闘ぶりを認めあった。
それと同時に、
『さて、個人戦もついに決勝戦に突入致しました!果たして優勝するのはどちらの選手なのか!期待が高まるところです!』
「あ、選手のコールが始まるみたいですよ」
優奈の言う通り、決勝戦の対戦相手のコールが始まるようだ。
『決勝戦の組み合わせは……雷山塚高等学校:三矢谷瞬一VS堀河高等学校:岸部隆太です!両選手、こちらの戦闘スペースまで降りてきて下さい!』
いよいよ決勝戦だ……気合い入れて行かないとな!
「頑張れよ瞬一!ここまで来たら、目指すものは一つしかない筈だぜ!」
「ああ、分かってるっての、晴信」
ここまできたら、後は優勝するのみだ。
……全身全霊を込めて、相手に勝ちに行くしかない!
「岸部……隆太?」
「何処かで聞いたこてあるような……ないような……」
どうしたんだろう。
植野姉妹の様子が、何処かおかしいような気がするんだが……というか、何かを思い出そうとしている?
「お前ら……岸部隆太って奴を知ってるのか?」
「聞き覚えのあるような……ないような」
「何だか、その部分だけ記憶が抜けているような気分なんですよ……」
記憶が……抜けている?
そんなことが、果たしてあり得るのだろうか?
一部の記憶のみが抜けるなんて……そんな技術なんてこの世の中に存在し得るのだろうか?
「おいおい……そろそろ行った方がいいんじゃないか?」
「あ、小野田か……お前、いつの間にか目覚めてたんだな」
「さっきまでは暗いオーラに包まれてたのにな……自殺王」
「その名前で呼ぶんじゃねえよ!」
ついに小野田が切れた。
……まぁ、俺には関係ない話だけどな。
「んじゃ、ちょっくら行ってくる」
「うん……行ってらっしゃい」
織にそう言われながら、俺は下へと降りていく。
……心を落ち着かせながら、戦闘準備を済ませていた。




