晴信、力を見せる
さて、晴信の試合が始まるわけだが。
「……大丈夫かな、晴信先輩」
晴信が会場に出たのとほぼ同時。
刹那はさっきまでの強気な発言とは裏腹に、結構晴信のことを心配しているように見えた。
……通り魔事件を境に、刹那は変わったと思う。
何というか、他人に対してここまでの感情を持った刹那というのも、新鮮で見ていて面白い。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。宮澤先輩は、瞬一先輩と対等に戦えるくらい強いんだもん。一回戦は勝てると思うよ」
「……そうね」
……この会話を聞く限りだと、どっちが姉だか妹だか分からなくなりそうだ。
どうも晴信が絡むと、姉と妹の立場が逆転するらしい。
「あ、始まったよ!」
葵のその言葉と共に、俺達は戦闘スペースを見る。
晴信は、手に銃を持って戦う戦法を選んだようだ。
……確実に勝ちに行く気か、あいつ。
「喰らえ!フレイムガン!」
ダンダンダン!
晴信の銃から射出される炎の弾は、相手に向かってすばやく飛んでいく。
だが、相手も結界を出してそれらの攻撃を防いでいた。
「癒しをもたらす水よ。今は彼の者に苦痛を与えよ!」
対する相手の得意属性は水。
……晴信の得意属性は炎だから、ちょっぴり戦い難い相手となるだろうな。
まぁ、さっきの俺みたいに、得意属性を無視した魔術を発動させれば話は別になるけどな。
「そんなちんけな攻撃効くかよ!」
晴信に向かって飛んできた何本もの水の柱を、晴信は右へ左へステップを踏むように避けて行く。
……あれ、晴信ってあそこまで身軽だったっけか?
「炎だけだと思ったら、痛い目を見ることになるぜ?……強風に巻き込まれないように気をつけろよ!!」
およそ呪文とは思えないようなことを言いながら、晴信は竜巻を発動させる。
その数、三本。
「なっ!?……得意属性の魔術でもないくせに、そこまで出せるとでも言うのか!?」
「雷山塚高等学校の2-Aをなめてもらっては困るな。これでも俺は、他の奴らに負けないように、得意属性以外の魔術もきちんと磨いてるんだよ!」
……いつの間に晴信はそんなことをしていたのか。
俺達が見ていないところで、あいつはちょっとずつだけど、成長していたってわけか。
……俺もあいつに負けないように努力をしないとな。
「喰らうがいい!ハリケーン!!」
「くっ!アイストルネード!!」
即興の呪文詠唱……前にもこんな感じの呪文詠唱をした覚えもあったが、この呪文詠唱方法にもきちんとした名前が設けられていたりする。
名前を、省略詠唱と言う。
頭文字詠唱とも違った、魔術名しか言わない呪文詠唱方法。
魔力の消費が少ない代わりに、その威力は弱くなる。
いわば、応急処置代わりの魔術と言ったところだ。
「はっ!たった一本の竜巻じゃあ、俺のハリケーンを止めることは出来ないぜ!」
「くっ……被害を最小限に留めることさえ出来ればそれで十分だ」
負け惜しみのように、相手はセリフをはき捨てる。
……この状況から見るに、この戦い、どう考えても晴信が勝つだろうな。
「す、凄いです……宮澤君、ここまで頑張っていたなんて……」
「人って、努力次第で成長するものなんだね……」
「だってさ、小野田」
「俺だって努力してんだよ!」
織の言葉の受け入りだが、落ち込む小野田に俺はそう言葉を投げかける。
本人にとっては、それは最後の一押しになったっぽいけど。
「これで終わりだ……沸騰しないように気をつけな!ファイアストーン!!」
竜巻が相手を襲う間に、晴信は頭上より炎を帯びた隕石を作り上げる。
竜巻が消えたその瞬間に、晴信はその隕石を、相手に向かって落とした。
「!!」
この攻撃を避けるすべは……残されていないだろう。
相手はこの攻撃を、その身に受け入れるしかない。
「……俺の、負けだ」
その言葉が呟かれたその瞬間。
相手に向かって落ちてくるはずだった隕石は、途中で姿を消した。
晴信が、意図的に消したのだろう。
「勝者、雷山塚高等学校、宮澤晴信」
「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
こっちまで聞こえてくるような雄たけびを、晴信はしたのだった。




