次の試合はっと
「さすがは瞬一だね!」
「見事な戦いだったわよ、瞬一先輩」
帰ってきたのと同時に、俺は観客席にいた葵と刹那に声をかけられる。
……啓介がいないということは、アイツは試合に向かったということだろうか。
「ああ、佐々木先輩なら、さっきコールがあって下に行ったわよ」
「そうか……ん?そこで負のオーラを発してるのは誰だ?」
何だかあからさまに黒いカーテンがかかっている人物が、晴信の隣に座っていた。
……誰だろう、コイツは?
「コイツは小野田だよ。負けたショックがよっぽど大きかったんだろうな」
「……そうか。小野田、負けたのか」
「ああ。しかも、勝てそうだっただけに、余計にショックが大きかったらしい。話しかけても何の反応も返って来ない」
「……そっとしといてあげた方がいいですよ。こういう場合は」
春香の言うとおりだ。
無理に変なことを言うだけ、今の小野田にとっては逆効果となってしまうだろ。
……何より、面倒臭い。
「ただいま……」
「お?啓介も帰ってきたのか……で、試合の方はどうだった?」
そこに、多少疲れた様子の啓介が帰ってくる。
啓介は、心底疲れたような声で、こう言った。
「試合は負けた……アイツ、相当強かった……」
「そんなに強かったのか?」
「ああ……攻撃が当たらなかった。風魔術を使ってくる奴だったけど、かなり動きが早くて……」
息も絶え絶えに、啓介は答える。
と、そこに聞き覚えのある声を聞いた。
「ご苦労様、啓介」
「!!その声は……千里!?」
「え?小山先輩?」
俺達の席から少し後ろの方から、見知った人物が降りてくる。
大和撫子を連想させるその人は、小山先輩その人であった。
「小山先輩……居たのならこっちに来ればよかったじゃないですかぁ」
気持ち悪い敬語を使って、晴信が言う。
……コイツ、まだ小山先輩のことを諦めてなかったというわけか。
「……瞬一先輩、この人は誰なのよ?」
その様子が納得いかなかったのか。
刹那が若干怒り気味に俺に尋ねてきた。
いやぁ、青春って、いいよね!
「この人は、啓介の昔からの幼馴染の、小山千里先輩だ。今後何かと接点があるかもしれないから、今のうちに覚えといた方がいいぞ」
「え、ええ……そうするわ(……負けない)」
最後に刹那がボソッと『負けない』と呟いていた気もするが、多分小山先輩自身は、晴信のことなんてそんな目では見ていないだろう。
俺の予想が正しければ……。
「あと少しあの魔術の使用タイミングが早ければ、きっと啓介も勝てただろうにね」
「そうなんだよな……あと少しで……」
啓介と話をしている時の小山先輩は、心から笑えているような気がする。
つまりは、小山先輩の心は、啓介に傾きつつあるということだ。
……こんな出っ歯のどこに魅力を感じたのかはともかく。
『第三スペース、雷山塚高等学校:宮澤晴信、郡山高等学校:稲垣飛鳥の試合が入ります』
「お?俺の名前が呼ばれたようだな」
いつの間にか、晴信の名前が呼ばれていたようだ。
……晴信なら、初戦突破は間違いないだろうな。
個人戦は、俺含め残り二人となってしまったからな。
出来れば晴信には、ここで勝ってほしい。
「分かってるよ。絶対勝ってくるっての!」
「……晴信先輩、怪我はしないようにしなさいよね」
「……ああ、分かったよ」
顔を赤くして、そっぽを向いてそう言った刹那に、晴信は笑顔でそう返す。
……直視はしてなかったのだろうが、刹那の顔はさらに赤くなっていた。
……うん、刹那は今、青春しているなぁ。




