ランカスト家の憂鬱 ~後編~
「私と共に、国を捨てて、共に暮らさないか?」
確かめるように、エーネルは言います。
けれど、エルマーは少し動揺してしまいます。
なぜなら、国を捨てるということは……二度とこの国には戻ってこないことを指すからです。
すなわち、家族を捨てるということになるからです。
「た、大変嬉しい提案なのですが……その提案は……」
「頼む、お願いだ!このままだと、私達の軍はランカスト家を制圧してしまうだろう。そうすれば、エルマーの命も無事ではなくなるかもしれない!……出来れば、エルマーの家族の命も助けてやりたいが、私一人の力では、エルマー一人で手いっぱいだ……だから、救える命だけは、私の手で助けたいのだ!」
「エーネル様……」
「それに……私も国を出る」
「!!」
エーネルが国を出るのには、かなり重大な意味が備わっていることを、エルマーは知っていました。
なぜなら、彼は次期国王候補。
すなわち、国を出てしまえばその地位はなくなってしまい、なおかつ二度と自分の国に帰れないのです。
「お金に困ることもあろう。食べ物に困ることもあろう。生活が不便になってしまうだろう……だが、私はそれでも構わない。エルマーさえいれば、私はどうなろうと関係ない……エルマー、私と共について来てはくれぬか?」
「わ、私は……」
戸惑うエルマー。
エルマー自身も、エーネルのことを想ってはいます。
けれど、それと同様に、家族のことも大切に想っているのです。
「私は、エルマーさえいれば、他に何もいらない。エルマーの為なら命だって投げだせる。エルマーの為なら、家なんかどうでもいい!……私はそれほどまでに、そなたを愛しているのだから―――!!」
「!!」
エーネルは、エルマーにそう言い放ちました。
すると、エルマーの心が、一気に揺らぎました。
そして……。
「……私も、エーネル様のことを愛しています。私も、エーネル様の行く所なら、どこまでもついて行きたいと思います―――!!」
「それじゃあ……」
「はい。私も……貴方のお供をさせてください。それこそが、私が望んでいた願いなのですから」
そしてエルマーは、エーネルの体に寄り添うように抱きついてきた。
エーネルは、優しくその体を包み込み、
「「……」」
その後で、口づけを交わしました。
「……それでは、今のうちにこの城から出ることにしよう!」
「そうですね……いつさっきのような事態に陥るとも分かりませんし。行きましょう!」
エーネルとエルマーは、兵士達の間を掻い潜って、どんどん城の外へ出ていきます。
そして、裏口から脱出し、そこで待たせていた馬に乗り、二人はついに、ランカスト家から脱出したのでした。
その後、彼ら二人の姿を見た人は誰もいません。
ですが、エーネルとエルマーは、どこか辺境の地で、幸せに暮らしていることでしょう。
この物語は、このような結末で、終わりを迎えます。
パチパチパチパチ!
会場から拍手の音が鳴り響く。
……どうやら俺達の劇は、それなりに受けたようだな。
「お疲れ様、瞬一・織」
「ふぅ~……さすがにセリフが多くて疲れたぜ」
「ぼ、ボクもだよ……」
舞台裏に来た俺達に、大和がそう声をかける。
確かに、俺と織のセリフは多すぎた。
……それこそ、恥ずかしいくらいに。
「最後のキス、あれってフリなんだよね?」
「あ?ああ……そうだけど?」
「……フリで終わったのが、残念だったなぁ」
葵に聞かれて、俺はそう答える。
何故かその後ろでは、織がショックを受けていたが。
『それでは、結果発表です!』
「おっと、大賞の発表か?」
「最後ですからね……私達のクラスが」
そして、司会者の口から、ステージ発表のクラス大賞が発表される。
俺達のクラスの結果は―――!!




