体育館へ行くか
「それじゃあ……そろそろ俺達は行くとしようかな」
「え?兄ちゃん達これから何処に行くの?」
「ん?ステージ発表だ」
幸太には言ってなかったっけか……。
俺達は、ステージ発表で葵脚本の劇をやることになっている。
……前に説明したかもしれないけど、一応な。
「劇とかやるの?」
「ああ。葵が脚本だ」
「そんなこと言われると……少し恥ずかしいかな」
「恥ずかしがらなくてもいいだろうに。お前はなかなかいい脚本書いたと思うぞ?」
「あ、ありがとう……」
顔を赤くして、葵が言う。
……まぁ、素直に褒めたつもりなんだけどな。
「……兄ちゃん、なんて鈍感ぶりなんだよ」
「はぁ?どういうことだ?」
時々俺は、みんなが言ってる事が分からなくなるんだが。
……あれ、何でみんな哀れみの目で俺のことを見つめる?
「「「……はぁ」」」
「そこ。溜め息をつくな」
春香・葵・織の三人分の溜め息が聞こえてくる。
……どうして俺は、溜め息を聞く羽目になってるんだろうか。
「劇の主役は誰なの?」
「瞬一だよ」
「兄ちゃんが……へぇ~」
「……なんでにやけてるんだよ、幸太」
大和に尋ねて、その後で俺の顔をニヤニヤしながら見つめてくる幸太。
……気味悪いぞ、正直言って。
「ヒロインは……」
「ボクだよ♪」
「……おお、可愛い人だ。兄ちゃん羨ましいなぁ」
「そんなぁ可愛いだなんて……///」
「……織、大丈夫か?」
トリップ状態に入ってしまった織。
こりゃしばらく戻ってきそうにないな……。
っと、まだ時間はあるのか?
「なぁ大和、まだ時間はあるのか?」
「うん?まだもう少しなら大丈夫なはずだよ」
「そっか……けど、外に出てる時間はないよな」
時間があったら、せめてもう一回空と幸太を会わせてやってもよかったんだけどなぁ。
……ひょっとしたら、ステージ発表の時に会えるかもしれないかねぇ。
あ、そうだ。
「葵、ちょっと耳を貸してくれ」
「へ?いいけど」
俺は幸太に聞かれないように、葵の耳元でこう言った。
「ステージ発表の時、空を読んでおいてくれないか?何かよ、幸太が空のことを気にしてるみたいなんだ」
「そうなんだ……うん、何とかしてみるよ」
よし、これでOKだ。
後は……幸太のがんばり次第だな。
「何を話していたんですか?」
気になったのだろう。
春香が俺にそう問いかけてくる。
けど、幸太がいる手前、このことを話すわけにもいかないので……。
「後でな」
「後で……ですか?」
「ああ。事情は後で話す。だから今は気にしないでくれ」
とりあえず俺は、春香にそう言っておいた。
すると春香は、渋々ながら応じてくれた。
物分りのよい子で助かるよ、本当に……。
「そろそろ時間よ。大和君も一緒に行きましょ♪」
……北条。
時間だということを教えてくれるのはいいんだけどよ。
幸せそうな表情を浮かべながら大和に何やら気持ちのこもったように話すのはやめてくれ。
正直、その落差が激しすぎるから。
「あれ、もうそんな時間か?」
「そうみたいですね……早くしないと、集合時間に遅れてしまいます」
ケーキ屋の方は、残りのメンバーで何とかなるだろう。
すでに売り上げの方は黒字になってるみたいだし……後はどれだけ売れるかだよな。
「さて。俺達は体育館に向かうぞ」
「頑張ってこいよ、兄ちゃん!俺も見に行くから!」
「分かってるよ!」
……さて、文化祭もいよいよ終盤戦に突入だ。
この劇さえ終えてしまえば、後残っているものと言ったら……後夜祭くらいか?
そんなことを考えながら、俺達劇メンバーは、体育館へと向かったのであった。




