惨劇を回避せよ(鬼治し編)
さて、昼飯を食べ終えたということで、シフトが入れ替わる時間となった。
もう少しアイミーと回っていたかったが、流石に自分のクラスの仕事をサボるわけにもいかないからな。
こうして俺の自由時間は、終わった。
けど、アイミーはどうすればいいのだろうか。
「私なら平気ですよ。シュライナーが待っていますから」
そうか……シュライナーがいたか。
なら平気だな。
「ま、後でこっちにも顔を出してくれればいいさ。食後のデザートとしてケーキを用意して待ってるぜ」
「はい!」
笑顔で俺の言葉に答えると、アイミーはそのまま何処かへ歩いて行った。
さて、俺はすぐに準備をしないとな。
「ただいま」
「……おかえり、瞬一君」
帰ってきてみたら、鬼のような形相を浮かべている織が、俺のことを待ち受けていた。
ま、まずい……かなり怒ってるぞ。
「い、今帰ってきたぞ」
「待ってたよ、瞬一君……?」
駄目だ……全く回避出来る要素がない。
死亡フラグしか立っていないぞ。
「さっきのは……どういうことだったのかなぁ?」
いつの間にか、場所は教室の奥の方のスタッフルームに移動しているため、周りに助けはいない。
ここには、織と俺の二人きりということだ。
言葉の選択を間違えただけで……死ぬ。
「そ、それはだな……校長にも頼まれてたんだよ」
「二人きりで……?」
「そ、それは……」
確かに、校長との交渉の際に、『二人きりで』という条件はなかった。
けれど、だからと言ってこの状況の織を連れていくのも少しつらいだろう。
もちろん、それは葵とて例外ではなかった。
……道中で殺される可能性も否定出来なかったのである。
「……遺言は、ある?」
「待て待て待て待て!どうして弁解の一つもさせてくれないんだよ!!」
まったく、織はここ数年の内に、人の話は最後まで聞くということを忘れてしまったのだろうか?
「弁解の場を用意する必要はないよね?だって瞬一君は、ボクより王女様を選んだってだけの話だしね」
「そういうわけじゃないんだけどな……」
参ったな。
こりゃひょっとしたら、命取られるかもしれないぞ。
腹をくくるしかないのか……!?
「そんなに二人きりで出掛けたかったのなら、今度何処かに連れてってやるから!!」
「!!」
……あ、あれ?
急に大人しくなったな。
「……分かった。それで許してあげる」
どうやら交渉は成立したようだった。
ふぅ……危なかったぜ。
「けどその代わり……その日はボクの言うことは何でも聞いてよね!」
「はいはい。それで今回のことを許してもらえるのなら、喜んで引き受けるよ」
すでに織からは怒りのオーラは見当たらない。
つまり、もう怒ってはいないということだ。
「それじゃあ……楽しみに待ってるからね。その日が来るのを!」
笑顔で俺にそう言うと、織はスタッフルームから出ていった。
「……ふぅ」
とりあえずはこれで惨劇だけは回避することが出来た。
後は店の売り上げ上昇の為にたくさん働くまでだ。
「さてと……張り切って働くか」
俺は制服から接客用のスーツに着替える。
うちの店はファミレス風という設定なので、男子はスーツ、女子はウエイトレスの格好をしているのだ。
「蝶ネクタイをしめて……完璧」
さて、そろそろ仕事に取りかかりますか。
と、意気込んでスタッフルームを出ようとしたその時だった。
「……瞬一、さっきの織ちゃんとの話はどういうことかな?」
「詳しく……教えて欲しいです」
「……」
どうやら惨劇は、まだ続いている様子だった。




