すべて近き理想郷
続いて俺達が訪れたのは、2-Aだ。
一応晴信達の教室にも遊びに行ってみないと……後が怖いからな。
最も、昨日の反応を見る限り、アイミーを連れてくるのは間違った選択のようにも思えるが。
「どうしたんですか?」
「……いや、まぁ、店の名前に驚いてただけだ」
その名も……『すべて近き理想郷』。
……どこぞの作品を二つもパクッて完成させた、なんとも斬新な店名だ。
このタイトルをつけたのは、間違いなく晴信だろうな。
「さて……ものすごく入りにくいこのお店に、入ってみるとするか」
「?そうですね」
恐らくアイミーは、この店の名前の由来等は知らないだろうな。
けれど……分かる俺も、何だかものすごく嫌悪感を抱かずにはいられない。
「……入るぞ」
「は、はい」
何だか妙な緊張感が俺を襲ってくる。
扉を開けようとすると……その……プレッシャーが。
ええい、ままよ!
ガラッ!
「おかえりなさいませ!ご主人様、お嬢様!!」
「「……はい?」」
さ、さすがは晴信プロデュース。
2-Aという神聖なる教室が、見事にカオスでピンクな空間に様変わりしてみせたよ。
アイツ……やはり放っておくと、誰にも止められないタイプなんだな。
このメイド服だって……実は計算づくされているものみたいだし。
……何だか、笑顔を振りまくこの子がかわいそうに見えてきた。
「二名様ですね?こちらの席へどうぞ!」
「は、はい……」
戸惑うアイミー。
そりゃそうだろ……こんなのを見せつけられたら、誰しも動揺を隠さずにはいられない。
しかも、店の中にいるのが、ヤバそうな感じの男ばっかししかいないものな……。
女子なんて、両手で数えられる程しかいない。
……晴信の奴め、自分の趣味の為にクラスメイト全員を巻き込むとは……やるな。
「あ、シュライナーみたいな人もいますね」
「ん?……本当だ」
辺りを見回すと、メイドだけでなく執事もいるようだ。
……なるほど、これで女性客も呼ぶという魂胆なのだろうが……。
「……啓介、アイツは何をしてるんだ?」
そして、啓介が謎の格好をしているのが見えた。
あれは……ピエロ?
そして……サーカスでよく見るような玉乗りをしているのが目に見える。
「皆さん、この佐々木啓介に盛大なる拍手を!!」
そう叫ぶのは、晴信だ。
……アイツら、この喫茶店の雰囲気ぶち壊しにしてないか?
こんな芸が受けるわけ……。
「では今から、玉乗りした状態でももあげをさせたいと思います!!」
……は!?
ももあげだと!?……アイツ、そんなこと出来るわけないのに……。
ドッドッドッドッドッドッドッドッ……。
「……出来てやがる」
「あ、ある意味凄いです……」
あほらしい芸だが、しかしそれはすごい芸だった。
普通、あんなことは出来やしないだろう……さすがは啓介。
男に不可能という文字はない、とでも言いたいのだろうか?
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、ああ。俺はコーヒーを」
「私は紅茶をお願いできますか?」
「畏まりました、ご主人様、お嬢様」
そう笑顔で告げると、そのメイドの女の子は、さっさと奥へ引っ込んでしまった。
……何だかかなりカオスな空気だ。
しかし、コーヒーはおいしかったし、アイミーに聞いた所、紅茶も美味しかったらしい。
けど、啓介のあの芸には、一体何の意味があったのだろうか……?




