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Magicians Circle  作者: ransu521
通り魔事件編
207/309

討つべき相手

「ぐはっ!」


戦いは、源三郎が優位となっていた。

先ほどまで戦っていた迅にとって、源三郎との戦闘はあまりにも不利すぎるものであった。


「……さすがは『組織』の元管理長。実力は半端ないな……」

「……もう充分だろ。暴れすぎだ、由雪迅」

「まだだ。まだ足りねぇよ……アンタを殺すまでは、まだ―――!」

「伏せよ」


ダン!

源三郎がそう告げると、迅の体は地面に押し付けられるように倒れた。

まるで、何者かの意思が働いているかのように、迅は立ち上がることが出来ない。


「これ以上の争いは互いに不利益しか生まぬものだ。そろそろ私は引き上げることにしよう」

「ま、待て!逃げる気か!!」


どこかへ歩き去ろうとしている源三郎に向かって、迅は叫ぶ。

すると、源三郎はその場に立ち止まり、もう一度迅の方を見た。


「……ならば、お主が本当に討つべき者の名前を教えてやろう。どうせお主は、悪魔との契約の際に、『仇を討つための力が欲しい。代わりに目的が達成したら、自分は死んでもいい』という条件で契約を結んだのだろう?」

「……よく分かってるじゃねぇか」


驚いたような表情を見せない。

地面に伏したままの迅は、苦い表情を浮かべるだけだった。


「さて、それは数年前のことだ……私はその時、とある人物と戦っていた」

「とある人物?」

「……その男の名は、スクリプター。寺内麻美の力が暴走した原因となった人物の名だ」

「!!」


瞬間。

迅の表情は驚きのものに変わっていく。

構わず、源三郎は続けた。


「私はその人物を殲滅する為に、数人の仲間を連れて戦闘を繰り広げていた。だが、その途中でスクリプターに逃げられた。そして、後を追ってみて、辿りついた先には……」

「……光の器(てんし)としての力が暴走した寺内麻美が、そこにいた」

「その通りだ」


一旦ここで言葉を区切る源三郎。

風が、妙に生暖かく感じる。

月の光(スポットライト)すらない漆黒の舞台の上で、源三郎は更に言葉を続けた。


「私は様々な方法を試してみた。なるべくなら、寺内麻美を生かしたまま保護したい……それはその場にいる誰もが思ったことだ。だが、その願いは叶わなかった。真実というのは残酷で、どうしても被害を最小限に食い止めるには、その場で光の器(てんし)を排除するしかなかったのだ……」

「……本当にそれしか方法がなかったのか?」


迅はそう問う。

源三郎は、少し言葉を止めた後、


「……残念ながら、その通りだ」

「……そうか。元凶は、もっと別にいたということか」

「……」


源三郎は、迅にかけていた魔術を取り払う。

それにあわせて、迅はゆっくりと立ち上がった。


「……そうか。俺の目的は、別の所にあったというわけか」

「……どうするのだ?スクリプターを討つのか?」

「当然だろう。それが俺の目的でもあり、望みでもあるのだからな……」


立ち上がったかと思うと、迅は源三郎に背を向け、そのまま校内へ消えていく。


「……何処へ向かう気だね?」

「地下だ。忘れ物を取りにいくだけだから、気にするな……今日限りで、俺はこの学校を辞める。だから、今日からアンタと俺は、何の関係もなくなったというわけだ。そこにねっころがってる雑魚共にも伝えておけ」

「……後悔する道だけは、歩むでないぞ」


源三郎から、『校長』として伝えられる最後の言葉。

迅は、その言葉に。


「……」


右手を挙げ、そのまま迅は校舎の方へ、漆黒の闇の中へ消えて行った。












この日以来、雷山塚高等学校内での通り魔事件は、起こらなくなったのだという。













次回、「通り魔」編は終わりとなります。

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