敵を討つ計画
「よ、由雪迅、だと?」
「……ああ、間違いない。あれは間違いなく、うちのクラスの、由雪だ」
ま、マジかよ……。
アイツが、今までの通り魔の、正体だったのか……。
けど、何が目的なんだ?
こんなことをして、自分にとって何が得になる?
「……」
ふと横を見ると、大和が何やら考え込んでいるのが見えた。
恐らく、俺と同じことを考えているのだろう。
「……俺も何だかわからなくなってきちまったよ。一体何が目的でアイツは襲ってきたのか……」
「晴信……」
悔しそうな表情をしている。
だが、その中には怒りの念も込められていた。
「……許せねぇんだよ、俺。同じ部活の仲間に手を出したアイツを、許せねぇんだよ……!!」
ドン!
晴信は、自らの机を、思い切り右手でぶん殴る。
もしかしたらヒビが入るのではないかと思わせる程、そのこぶしは固く、衝撃は強かった。
「……許せないのは、私だってそうだよ」
「葵?」
口を挟んできたのは、葵だ。
「私の部活の後輩を危険な目に遭わせただけじゃなくて、実際に小野田君を……許せないよ、私。由雪君を、許す気なんてない……」
「あ……」
今まで見たことのないような、怒りが見えた。
葵がここまで怒っているのは、初めてではないだろうか?
「……落ち着いてください。今ここで怒っていても、何も始まりませんよ」
なだめるように、春香が言う。
……けど、その表情には、悔しさがにじみ出ていた。
「……俺も、こんなことは終わりにさせたいと思ってた所だ」
「啓介?」
「……安全な場所なんてない学校なんて、通いたくないからな。それに、このままだと千里まで毒牙にかけられる可能性がある……そんなこと、させてたまるか。俺の周りの人間が被害者になるのなんて、もうごめんだ」
啓介がこんなことを言う人物だったとは……俺はこの日初めて知った。
……いや、すまないな、啓介。
「なら、今日の夜に待ち伏せでもする?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
ここで出された、大和からのそんな一言。
待ち伏せ、か……それはいい作戦だ。
「けどよ、確か通り魔は水曜日って話じゃ……」
「光平が襲われた日を思い出して。八月三十一日は、水曜日でもなんでもないと思うけど?」
「……あ」
確かにそうだ。
その日は確か、水曜日ではないはず。
……じゃあ、つまり。
「……つまり、何なのかしら?」
……北条の言うとおり。
だからどうしたって話になってしまう。
なぜなら、俺達は由雪の目的なんて知らないからだ。
「それは僕にもわからない……けど、その目的は、もうすぐ完成しようとしているのは確かだよ」
「何でだ?」
大地が大和に尋ねる。
すると、
「目的があって通り魔の犯行を行っていたのだとしたら……」
「……曜日が関係なくなってしまったということは、その目的を遂行する為の材料が揃ってきている……!!」
「そういうこと」
なるほど……人の血を集めて、何かを企んでいるということか。
血には、人が生きていく為に必要な『生命力』の何パーセントか混ざってるからな。
「多分、目的は血よりも、『生命力』の方にあると思う」
「……なるほどなぁ」
俺の仮定を肯定するように、大和がそう告げた。
「……なら、その作戦で行こう」
「……だな」
「私も反対はしないよ」
啓介が決め、俺と葵が同意する。
他の奴らも、口には出していないけど、賛成のようだ。
「……んで、悪いんだけどよ、葵」
「何?」
「……空を呼んできてくれないか?正直アイツも、俺達が歩いていた所で襲ってくるとは到底思えないんだよ」
「……分かった。後で聞いてみるね」
さて、これで準備は整った。
後は、夜を待つのみだ……。




