通り魔の正体
「……ちっ、外したか」
「宮澤先輩?」
突然魔術の詠唱を行ったのは、晴信であった。
刹那は、まさか晴信がこの時間まで学校にいるとは思ってなかったので、驚くばかりであった。
「ったく、先生に呼ばれて夜まで補習受けさせられてたと思ったら、今度は通り魔か!」
「……どうして、私を?」
「当たり前だろ!同じ部活の、仲間なんだからよ!」
刹那は、その言葉を聞いた時、ハッとした。
まさか、晴信からそんな言葉を聞けるとは思っていなかったからだ。
「……ちっ。仲間か」
「……おい、そろそろ姿を現したらどうだ?通り魔よぉ。けどな、俺の、俺達の仲間傷つけたことに関しては、絶対に許す気はねぇぞ。俺もお前を、殺す気で行く」
「……殺気か。けど、弱いな」
晴信の言葉に応えるように、通り魔は闇から姿を現す。
そして、晴信と刹那の二人の視界に通り魔の姿が写った時、
「なっ!?」
晴信の顔には、驚愕の色が見えていた。
一方で、刹那は緊張の面持ちを保ち続けている。
……刹那は、目の前の少年を知っているわけではなかった。
「お、お前が……通り魔だったのか、由雪、迅」
「そうだ……俺が、お前らの間で『通り魔』なんてあだ名をつけられた、由雪迅だ」
答える、迅。
彼の手には……鎌が握られていた。
何人も襲ってきたのだろう……刃先は、赤く血で染まっていた。
「テメェ……学校ふけてると思ったら、こんなことしてたのか。目的はなんだ?欲求晴らす為か?」
「欲求を晴らす為の犯行だったら、命を取ればそれでいい……俺は殺人鬼とは違うんだ。まだ人は一人も殺してはいない」
「ふざけんじゃねぇよ……それが人を何人も斬り裂いてる奴のセリフか!!」
吠える、晴信。
自らの心の中に芽生えた怒りの念を、すべて迅にぶつける。
だが、迅は動じるどころか、むしろけなすような笑いを浮かべて、言った。
「ハッ……邪魔だ、どいてろ。今は食事の時間なんだよ。部外者はとっとと舞台から降りろ」
迅は、手にしていた鎌を構え、右足で地面を蹴る。
そして、晴信に接近してくる。
「へっ!そんな攻撃が当たるかよ!……ファイアボール!」
晴信の頭上に、炎の弾が二つ出来あがり、その内の一つが、迅に向かって襲いかかる。
だが、
「……こんなものか、炎なんて」
「……え?」
ズバッ。
鎌で、炎の弾を斬り裂いた。
それも、いとも簡単に。
「なん……だと?」
「俺とお前では、クラスこそ同じかもしれないが、力の差なんて明らかだろ?そんなことも忘れたのかよ!」
ドン!
今度は思い切り地面を蹴る。
……鎌を抱えているとは思えないほどのスピードで、晴信との距離をどんどん縮めていく。
「くそっ!」
晴信も、そう簡単にやられるわけにはいかない。
呪文の詠唱をする準備に入る。
だが、
「遅い!」
「がはっ!」
迅の足が、晴信の溝に入る。
その場に蹲り、せき込む。
そうしている内に、
「……!!」
「……もう終わりか、情けない」
いつの間にか背後に回られていて、晴信の首筋には、鎌の刃先があった。
……もし迅がこのまま鎌を引いたら、晴信の首は間違いなく刎ねるだろう。
「なら……ありがたくお前の血を頂くことにするぞ、宮澤晴信!」
「み、晴信先輩!!」
刹那の声が響く。
だが、晴信の耳に、その声は届いていなかった。
「(や、殺られる―――!!)」
もうすぐに晴信の首筋より、鮮血が流れる。
そんなことを考えた晴信は、その場で気絶してしまっていた。
……それは、刹那も同様のことであった。
通り魔編……結構長くなりそうだ。




