遭遇
Side刹那
その後、私達の部活は、今日一日様子を見ることにした。
小野田先輩は背中に切り傷が残ったものの、どうやら命までは取られなかったようだ。
「……」
今日は私は一人で帰ることにした。
原因は……なんとなく一人になりたかったからだ。
妹である優菜には、先に帰ってもらった。
「……通り魔、かぁ」
もし、優菜に襲い掛かってきたりしたら、どうしよう?
私一人で、どうにか出来るわけでもないだろう。
小野田先輩だって、魔術格闘部のメンバーなのだ。
それなのに、ほとんど抵抗することもなく、背中からバッサリ斬られた、との話だ。
……これらの話は佐々木先輩が人づてに聞いた話なので、本当かどうかは分からないけど。
「けど、優菜には……傷一つつけさせない」
『あの日』から、私は決意したのだから。
もう優菜に泣き顔をさせない、と。
私も、優菜の泣き顔を、見たくないから……。
「それにしても、本当に誰もいないなぁ」
当たり前といわれてしまえば、それまでとなってしまうのだけど。
私は、なんとなく家に帰る気がしなかったので、特に寄り道することなく、自分の教室にいたのだ。
……あんな話を聞かされた後なのだ。
黄昏たくなるのも当然といえるだろう。
「……早く帰ろう。今日はもう遅いし」
辺りは暗い。
それに、ここは学校だ。
もしかしたら……例の通り魔が襲ってくる可能性もあるし。
「……お前で、最後だ」
「!!」
その時だった。
どこかから聞こえてきた、低い声。
そして同時に感じる、殺気。
それは……尋常のない程のものだった。
隠す気なんて、さらさらない。
まるで、目の前に現れた人を、確実に殺しにいく……そんな殺気だった。
「……アンタが、通り魔ね?」
「……」
返事はない。
けど、確信はある。
……これだけの条件が揃っているんだ、通り魔じゃないわけがない。
それに、本当にただその場に居合わせただけなら、わざわざ殺気なんて出す必要はない。
「……出てきなさいよ。コソコソ隠れてるなんて、アンタ実は弱虫なんじゃないの?」
「……確かに、その点で言えば、俺は弱虫かもしれないな」
暗闇から返ってくる、通り魔の言葉。
「……けど、お前の方がよっぽど弱虫だぞ?さっきから足が震えてるじゃないか」
「!!ふ、震えてなんかないわよ……!!」
指摘されて、気づく。
私の足が……絶え間なく震えていた。
「そうかよ……まぁ、そんなのどうでもいいけどな。どうせお前は、ここでその身を流れている血を地面に流す嵌めになるのだからな」
「……」
来る……足音が聞こえる。
私の方に、確実に迫ってくる―――!
なのに、どうして?
―――どうして私の足は、動かないの!?
「突っ立ってるだけだと、ただの豚になっちまうぞ!!」
「くっ……動いて、動いてよ、私の足!!」
このままじゃ、本当に殺される。
これまでの通り魔の被害者は、殺されてはいないけど……今回は、分からない。
もしかしたら、今回から殺されてしまうかもしれない。
そんなのは、嫌だ……。
それだけは、嫌!
「助けて……誰か、助けてぇ!!」
「助けを求めても無駄だ。この舞台には今、お前と俺しかいないんだからな!!」
ま、まずい……背後まで迫ってきてる。
このままじゃ、本当に……!!
「炎よ、彼の者を焼き尽くせ!!」
その時。
私は、聞き覚えのある声を、聞いた。




