試験前の教室
「あ、瞬一!」
「おはよう、葵、みんな」
教室に行けば、すでにみんな揃っていた。
その手には……クラス分け試験の為の勉強なのか、教科書が握られている人がほとんどだった。
「やっぱり勉強してるのな」
「まぁ、一応やっておかないと、下のクラスに落とされる可能性もあるわけだしね」
「うぐっ!」
……北条の言葉が、晴信の心臓を抉ったな。
今の晴信に、クラス分け試験の話はしてはいけない……のだが、嫌でも話題に出さざる負えないのも現状だ。
最も、晴信の為にクラス分け試験の話をしないのも、何だか面白くないのだが。
「ど、どうかしましたか?」
心配そうな表情を浮かべて、春香が晴信に尋ねる。
……心配する必要は微塵もないのにな。
「ちょっと!今、心配する必要はないって思ったろ!」
「ん?違うぞ。心配する必要は『微塵も』ないって思ったんだ」
「どっちにしてもあんまり変わってないだろ!」
いやぁ、微妙に違うぞ。
軽いか重いかの違いはあるぞ。
「瞬一、コイツ、もしかして……」
「ああ。今日のクラス分け試験のことをさっぱり忘れてた人の一人だ」
「ふん……いいざまね」
「う、うるせぇぞ北条!」
いつもよりも動揺が見え隠れする晴信。
……まぁ、本気で自分が下のクラスに落ちるのではないかと思っているのだから、仕方ない気もするがな。
「日頃から勉強しとけばよかったのに……」
「それが出来たら、晴信は今、こんなに慌てることはないって、大和君」
大和の言葉に、葵が言葉を返す。
……ごもっともな意見、ありがとう。
「俺だってな、少しは勉強してるんだぞ!」
「んじゃあテストな。織田信長を本能寺の変にて襲ったのは誰?」
「簡単じゃないか……もちろん、徳川家康だ!」
「「「「「……」」」」」
す、すげぇ……晴信の頭の中で、信長と家康の同盟関係が見事に崩れ去ったぞ。
歴史的超事実が生まれてしまった……。
「晴信、本能寺の変で織田信長を襲ったのは、明智光秀だよ?」
「何!?あの鎌野郎か!?」
「……鎌?」
ああ、晴信の言う『明智光秀』っていうのは、馬がめちゃくちゃ頑張ってるゲームの方のキャラか。
けどな、アイツだって史実通り、信長を討ってるのを忘れてないか、晴信?
「まぁ、晴信が勉強してないのが分かったところで……」
「憐れむような眼で俺のことを見るな!」
そりゃあ憐れみたくもなるわ。
ここまで『バカ』だとは思ってなかったからなぁ。
恐らく、他の奴らも同じ考えだと思うし。
「け、けど、今から勉強すれば、なんとかなると思いますよ……?」
「……春香、気休めの言葉をかけてやるな。アイツにはな、現実を見せた方がいいんだよ。『現実』をな」
「おいこら。『現実』の部分を嫌に強調するな!」
叫ぶ形で晴信は俺に言う。
いや、さっきから十分に叫んでいたのだが。
「……今回は諦めなよ、晴信」
「葵まで!?……俺は、俺はどうすればいいんだぁあああああああああああああああああああああ!!」
「いや、勉強しろよ」
「……」
晴信、教室の中心で自分が何をすればいいのかについて叫ぶ。
だが、大地の一言によって、撃沈。
「……はい、みなさん席についてください」
「先生来ちまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うるさい!」
「……はい」
先生が入ってきたことにすら動揺していた晴信は、一喝されてすぐに黙る。
……さて、いよいよ試験開始か。
頑張ってS組に残留しないとな。




