実家に帰って参りました。
「……ふぅ」
八月二十七日。
夏休みも残り本日を含めて後五日と迫ってきた頃。
俺は今、とある家の扉の前にいた。
持っているカバンには、一泊分の荷物。
体中からは、その荷物を運んできたことによる、汗が噴き出ていた。
朝に出発したけど、今はもう十時頃になるだろうか。
ちょうど日が昇ってきてそんなに時間が経っていない頃だというのに……日差しは俺の体を容赦なく貫く。
「暑い……」
俺は自然と、そんな言葉を呟いていた。
いや、こんな暑さ何だから、呟かざる負えないだろう。
「とっとと中に入って、涼むか」
そう決めた俺は、右手をインターホンに伸ばす。
そして、そこにある小さなボタンを、右手人差し指で押した。
ピンポ~ンという音がして、チャイムが鳴り響く。
『はい?』
程良い年齢の女性の声が響いてきた。
俺はその女性の言葉に答える。
「帰ってきたぞ、母さん」
『瞬一ね!?鍵は開いてるから、入ってきていいわよ!』
先ほどまでの事務的な応対はどこへいったのやら。
いきなり声の感じが明るくなり、俺にそう言葉を返してきた。
「……さて、行くか」
ここは、俺の実家。
実家と言っても、東京から埼玉と、そんなに距離は遠くない。
電車・歩きで一時間ちょいくらいだろうか。
そのくらいの距離に、俺の実家はあった。
マンションではなく、一軒家。
それほど大きくもなく、小さくもない、ごく平凡な二階建てのマンションだ。
「ただいま~」
ガチャッと扉を開けた後、俺は中にいるだろう母さんに、そう言った。
すると、
「お帰り!兄ちゃん!」
「おお……ただいま、幸太」
第一に俺が見たのは、中学二年生の弟の幸太だった。
あ、幸太は確か……自然魔術師の、得意属性は自然だったな。
「兄ちゃん、後で久しぶりの魔術対決をやろうぜ!」
「……相変わらずヤンチャなのは変わらないな」
ヤンチャというか……。
小さな頃から、俺と魔術勝負をするのが好きらしい幸太は、こうして魔術の勝負を迫ってくる。
……と言っても、去年来た時も、例年通りでも、俺の勝利に終わっているのだが。
「お帰り~♪瞬一!」
「あ、ああ……ただいま」
やけにテンション高い声で俺の名前を呼んできたこの人物こそ。
俺の……生みの親である、名前は都子。
戸籍上、俺の母親だ。
「戸籍上って何よ、瞬一!」
「え?聞こえてた?」
「兄ちゃん、小さな声で呟いてたぞ?」
しまった……またか。
気をつけようと思ってるんだが……つい口に出したくなってしまうお年頃なのかもしれないな。
「いや、多分そうじゃないと思うけど……」
幸太がそんなことを呟いてるけど、気にしない気にしない。
「さぁて瞬一!今日は瞬一が帰ってくるからって、腕によりをかけて料理を作ったのよ!」
「本当か?それは期待できそうだな……」
母さんは料理はうまい。
何と言っても……母さんの本職は、コックだからな。
コックと言っても、小さなレストランでコックとして働いているとのことだ。
三ツ星レストランとかで働いているわけではないので、給料は普通の人の分くらいしかもらえていないわけなのだが。
「……兄ちゃん、それじゃあその後に」
「ああ。やってやろうじゃないか、幸太。お前がこの半年間でどれだけ強くなったのか、見てやるぜ」
「ああ!」
明るい笑顔で俺にそう返事を返す幸太。
……うん、素直な弟というのは嫌いじゃないな。
世間一般の兄弟というと、兄と弟の関係がはっきりしていたりして、そんなに仲がよいわけじゃないと言われているけど、俺達はむしろ仲がいい方の部類に入るだろうな。
「んじゃ、早速飯だな」
「何言ってんだよ、兄ちゃん。まだ十時だぞ?」
「いいんだよ!ゆっくり食べるから!」
時間は早いけれども。
俺は昼食を食べることにした。




