そういうわけで
「へぇ~。お前の婆ちゃんの家って、京都にあるんだな」
「そうだよ。だから今日は実家に帰ってきたって所だね」
実家か……。
俺もこの修学旅行が終わったら、実家の方に顔を出さなくちゃいけないんだよなぁ。
……元気にしてっかな、アイツも。
「遠くを見て何ボォ~としてるんだよ、瞬一」
「ん?ああ……ちょっとな」
大地に言われて、俺は思考の世界からの帰還を果たす。
「どうせまた、新たなるフラグ探しでもしてたんだろ?」
「晴信、死にたいのか?」
「サーセン」
うん、とりあえず『フラグ』とかほざきやがった晴信を一蹴し、
「じゃあ……とりあえずこの寺だけでも俺達と一緒に行動するか?」
「……そうする。来月からは私も、瞬一君達と同じ学校に通うことになるんだし」
「え?そうなの?」
琉川が微妙な驚きの表情を浮かべる。
……ああ、そうか。
大和は琉川には織のことを言ってなかったんだよな。
何せ、一緒に行動するのは今回の修学旅行が初めてなわけだし。
「……お前は織のことを知らないよな。実際に会ったのは葵と大和の二人だけみたいだし……一応紹介しとくよ。コイツは俺の幼馴染の、神山織。今度俺達の学校に転入するらしい。クラスまでは分かってないけどな」
まぁ、このタイミングでクラスまで判明していたら、ある意味怖いよな。
学校側の対応がスムーズ過ぎることに、軽く戦慄すら覚えてしまいそうだ。
「んで、織。コイツらは俺のクラスメイトだ」
順々に名前を教えていく。
そして、全員の名前を把握したらしい織が、
「よろしくね!」
と言うのが最後で、自己紹介は終わりとなった。
「けどよ、S組に入るのは結構つらいんじゃないのか?」
「まぁ……そうよね」
晴信の言葉に、北条が頷く。
……俺的には、晴信よりも織の方が数倍頭いいように思えてならない(て言うか、現実問題俺よりも頭いいと思う)。
「織はな、お前なんかよりも遥かに頭いいぞ、晴信」
「な、何で俺を指さす!?」
「……英語で赤点取るような奴がS組にいるなんて、恥ずかしいよな」
「グハッ!」
……大地が晴信にダメージを与えた。
いやぁ、俺も言おうと思ったけど、さすがに二連ちゃんはキツイかなと思うし、やめておこう。
「それに、話したらキリがないけど、とある理由でコイツは小さい時にアメリカに行ってるんだ。所謂帰国子女って奴だな」
「ま、マジで!?」
晴信が驚きにも似た声を挙げる。
……やはりコイツはマジで騒がしい。
「帰国子女で、美少女……萌えぇえええええええええええええええええ!!」
「いや、基準がよくわからないから」
「ていうか、何?アンタ死ねば?」
大和による冷静な突っ込みと、琉川による最早毒舌により、晴信のダメージは積もるばかり。
「あら、琉川さん。その点については私も同様の意見よ」
「……あの変態に対する考えなんて誰もが一緒だと思うけどね」
……まぁ、要約すると。
晴信は救いようもない程のアホだってことだな。
次回のクラス分け試験(すなわち二学期の始業式試験のことだが)はどうなるのかねぇ……。
「時間も迫ってきていることですし、そろそろ移動しませんか?」
空気を読んでか読まないでか。
このタイミングで春香がそう提案してきた。
「そうだね。時間が迫ってきてるし。みんな、行こうよ!」
「だな」
葵も俺も、その意見には賛成だった。
なので、俺達は本尊の中に入ることとなった。
「……あのさ、織。離れてくれないか?」
「え~?くっつくの、駄目?」
「いや、駄目ってわけじゃ……って、左側には葵まで」
右に織が。
左に葵が抱きついてきている状態で、俺は移動する破目になったのだった。
「両手に花、だね」
「大和……それ、どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ」




