意外と……てか、弱かったな。
「八つ裂きにしてやんよ!」
ナンパ男の一人が、俺達に折り畳み式ナイフから刃を出して、こっちに襲いかかってきた。
……何故魔術を使わないんだ?
「それくらいなら、避けるのも簡単だ!」
魔術を使うまでもない。
俺達は後ろに下がり、攻撃をやり過ごす。
そして、反撃するために俺は握り拳を作り、相手の顔面目掛けて殴りにかかる―――!
「甘い!俺達が魔術を使えないとでも思ったか!」
「え?」
何をするのかと思えば、ナイフを振ってきた男の背後から、小さな水の塊が飛んできた!?
「ちっ!……あらゆる害から身を守る不可視の壁よ。我が両手に宿れ!」
殴ろうとしている手の動きは止まらない。
ならば、その手に魔術をかけて、相手の攻撃を打ち消せばいい。
パァン!という音と共に、攻撃は打ち消された。
「あ、アイツの攻撃……がぁ!?」
その手を止めることなく、そのままの勢いで相手の顔面を殴った。
その横を、大地が勢いよく走る。
そして、一人の男の前に立ち、
「終わりだ……」
「丸腰で俺達に挑もうなんざ、馬鹿にも程があるぜ!」
そう言われて、大地はポケットの中から携帯電話を取り出す。
そして、
「彼の者を討て……ウイング!」
簡単に魔術の詠唱を行う。
瞬間、相手の立っている地面から竜巻が現れた。
ただし、何時ものそれよりは小さかった。
「うひゃあ~!目が回るぅうううううううぅうう!」
男はそのまま目を回して、その場に倒れてしまった。
「さて……まだやる?」
やられていない二人の男に大和が笑顔を浮かべながら尋ねる。
「この野郎……やられっぱなしでたまるかよ!!」
「あ……おい!」
男の制止を聞かずに、一人が大和に飛びかかる。
なんのことはない、ただのパンチだ。
大和は特に気にすることもなく、右手でそのパンチを払いのける。
そして、相手の腹部に、左手拳を固めての、鳩尾。
なす術もないまま、男達のうち三人が戦闘不能に。
「もう一度聞くよ……まだ、戦う?」
「あ……あ、す、すみませんでしたぁああああああああああ!!」
男達は、謝罪の言葉を述べると、そのまま何処かに走り去ってしまった。
いやぁ、いい様だ。
ついでにそのまま病院に行ってくれればいいんだけどなぁ。
「さて……大丈夫か?そこにいる女子」
俺は、離れているところに立っていた女子に、そう話しかける。
「あ、うん。大丈夫……って、ああ!」
む?
何処かで聞き覚えのある声だな。
というか、何処かで見たこともあるぞ。
「……あれ?君、もしかして……」
「何?大和、お前の知り合いか?」
大地が大和にそう尋ねる。
……その前に、俺も知っているというか、俺に至っては先月会ったばっかしだし。
「やっぱり……瞬一君だよね!?」
「何でお前がこんな所にいるんだよ……織」
そこにいたのは。
神山織その人だった。
「織って……この子が、神山織ですか?」
「女の子……じゃない、大和」
「うん、どうやら僕は勘違いしてたみたいだ」
大和……お前、織を見て男だと勘違いしてたのか。
まぁ、格好とかで下手すれば男と見間違えられないこともないし。
一人称も『僕』なので、間違える人が出ることは出るかもしれないな。
「ひどいな……僕はこれでも女の子なのに」
「これでもって言うか、お前は間違いなく女だから、安心しろ」
「本当!?」
本当の話だから……。
だから顔をドアップにするのだけはやめろ。
「うう……」
何だか葵も怒ってるしよ……。
てか、怒る理由が分からないんだけど!?
「……はぁ。三矢谷瞬一って、みかけによらず鈍感なのね」
「お~い、聞こえてんぞ~」
何だか琉川が俺の悪口言ってた気がするんだけど。
てか、鈍感って何だよ……。




