バスの中での宣戦布告
次の日。
この日は朝食を食べ終えた後、奈良の大仏を見に行く為にバスで移動することとなった。
にしても……。
「お前、どうしたんだ?その体」
「……昨日やっちまったぜ♪」
「いや、ソードマスター?」
意味が良く分からないボケ、ありがとう。
……ていうか、夜中にいなくなったと思ったら、やっぱり侵入しに行ってたのか。
「で、誰の部屋に侵入してきたんだ?」
それ聞くか?大地。
「……葵達の部屋。一番楽そうだったから」
「アホだな……あの部屋には琉川がいる、レッドゾーンだったのに」
琉川はガードが堅いからな……最も、それ以前の問題ではあるのだが。
つか、昨日の夜のことを本当に実現させた晴信は、ある意味歴戦の勇者だよ。
「今日も風呂覗きはするぜ!」
「自信たっぷりにそんなこと言われても、反応に困るよ……」
大和が微妙な表情を浮かべて、そう答える。
大和にまでそんな表情をさせるとは、この男、恐るべし。
「ていうか、計画ダダ漏れよ。宮澤」
「……うぇい」
ふと反対側の席を見ると、葵と春香が座っている後ろから、謎のオーラがわき出ているのが分かった。
そして、その席に座っていたのが……。
「琉川……聞いてたのか?」
「ええ。貴方が今夜も女子風呂を覗きに行くのも、ね」
「……けど、はたして今日の俺を止めることは出来るかな?」
何でお前は挑戦的な反応を取ってるんだよ。
いくらそんなこと言ったって、結局お前がしてることは……。
「貴方がしようとしている行為は、犯罪行為なのよ?私達が訴えれば、勝てるかもしれないけど?」
「くっ……だが、いくら風紀委員のお前でも、俺を止めることは……」
「出来るわよ?単純な成績だけだと、私の方が上なのはご存じかしら?」
……まぁ、晴信は今回、英語が赤点だったのも手伝って。
S組の中では順位が明らか低い部類に入るからな。
「は、反論出来ない所が痛い……」
妙に落ち込む晴信。
結果、口での対決は琉川の勝利っと……。
頭の中の記録用紙に、俺は勝手に書き込んでおいた。
「く……まだだ。せいぜい夜を楽しみにしておくんだな、琉川!」
「……貴方の負けは決定してるわよ?それでもいいのかしら?」
「勝負はやってみなければわからないだろ?!わずかな勝率があるのなら、俺はその確率に賭けてみせる!!」
いや、言ってることは間違ってないと思うんだけどよ……。
「お前、この場面でそんなことを言ったって、自分の行動を正当化しているだけにしか見えないぞ?」
「甘いな、瞬一!男たるもの、一度受けた勝負は、二度と引かないものだぜ?!」
「……いや、確かにその通りではあるんだけどな。この場合は、お前に最初から勝ち目がない勝負だと思うぞ?」
晴信の勝利条件―――女子に見つからずに風呂の中を覗ければ勝ち。
女子の勝利条件―――晴信を見つけて、先生に通告すれば勝ち。
……明らか女子の方が有利な、よ~く考えれば晴信自身に勝ち目などない勝負だ。
それが分からないとは……晴信は相当の馬鹿だ。
「……まぁ、せいぜい頑張りなさい?」
最早勝つことが分かっているらしい琉川は、晴信の無茶な勝負に挑もうということだ。
……いや、この場合は逆なでさせておいて、行動を起こさせた後に摘発するという、よく警察等がやるおとり作戦的なあれか。
……さすがは琉川、恐るべし。
「よぉ~し、何が何でも絶対覗いてやる!」
「……」
燃える展開になってる所申し訳ないけど。
お前の目的って……なんだっけ?




