深夜の女子達の会話
Side葵
私達は、消灯時間を過ぎた後でも、未だに起きてた。
折角の修学旅行なのに、11時に寝てしまうのはなんとなく勿体ないような気がしたからね。
「それじゃあ……何の話をしよっか?」
電気だけが消えていて、並べられた四つの布団の、真ん中の二つの布団に集まり、寝てるわけでもなく、互いに向かい合って話をしていた。
私達の班は、私・春香ちゃん・北条さん・琉川さんの四人。
春香ちゃんは仲良くなれた気がするし、北条さんは、下の名前で呼ばせてはくれないものの、仲が悪いわけではない。
ただ……琉川さんは、何だか妙に私達のことを避けてるような……そんな気がした。
「何の話もなにも、消灯時間は過ぎてるんだから、寝るのが当然でしょ?」
「あらあら……琉川さんは空気も読めないような女子生徒だったのかしら?それはとても残念ねぇ……」
「貴女だけには言われたくないわよ……北条さん」
うん、それは私も同感だと思う。
特に、大和君が絡むと、本当に空気が読めなくなるよね、北条さんは。
「それよりも、本当に何の話をしましょうか……?」
「それじゃあ、定番の恋ばなでもしましょうか?」
春香ちゃんの言葉に、北条さんが答える。
……恋ばなかぁ。
北条さんの好きな人とかは知ってるけど、春香ちゃんや琉川さんは、誰か好きな人とかいるのかな……?
そういえば、北条さんがどうして大和君のことが好きになったのかも、少し気になるかも。
「恋ばな?私には好きな人はいないわよ」
「いないん……ですか?」
「ええ。私のタイプと言えるような人はいないわね」
なんだかんだ言って、琉川さんは話に参加してくれている。
優しい人だな……琉川さんは。
それにしても、好きな人はいないのか。
「なら、琉川さんのタイプとかは?」
私は、琉川さんにそのことを尋ねる。
すると、
「規則をきちんと守って、人の話はちゃんと聞いてくれて、自分から行動出来る人が理想ね」
「な、なかなか難しいですね……」
春香ちゃんの言う通り、それはちょっと難しいかもなぁ。
なかなかそんな人なんて現れるものでもないよね。
「そうね……このクラスで言うなら、大和君辺りが一番妥当な線かしら?」
「なっ……大和君は渡さないわよ!」
「別に大和君のことが好きってわけでもないわよ……そういえば、貴女は大和君のことをどうして好きになったのかしら?」
琉川さんが、質問を加えて言葉を返してきた。
北条さんは、よくぞ聞いてくれたという表情を浮かべたと同時に、
「部活で大和君の剣捌きを見た時に、一目惚れしてしまったのよ……華麗なる動き、尚且つ無駄な動きがほとんどない。そして、イケメン……///」
「結局最後は顔なんですね……」
春香ちゃん、それは言ってはいけないところだと思うよ。
「北条さんは一目惚れだったんだね……それじゃあ、春香ちゃんは?」
「え?私……ですか?」
自分に振られて、春香ちゃんは顔を赤くして、戸惑っていた。
なんというか……今の春香ちゃん、結構可愛い……かも。
「な、名前は恥ずかしくて出せないのですけど……」
「いいわよ。無理に名前を言わなくたって。いるだけ琉川さんよりましよ」
「何よ、その言い方は……」
北条さんからの言葉に、琉川さんは喧嘩腰になる。
せめてここでの喧嘩はやめて欲しいかも……。
「春香ちゃん、話を続けて」
「あ、はい……」
私は春香ちゃんに先を続けるように言った。
それを受けて、春香ちゃんは話を続けた。
「一緒にいるだけで、なんだか胸が熱くなって……楽しくて、困った時に助けてくれる。私は、そんなところが、好きになってしまいました……」
赤かった顔を更に赤くして、春香ちゃんはそう言った。
困った時に助けてくれる人、か……。
一体どんな人なんだろうか?
「う……一之瀬さんも青春してたのね。私だけなのかしら、そういう人がいないのは」
「焦る必要はないと思うよ……何せ、時間はまだタップリあるんだし」
「……そうね」
私がそう言うと、琉川さんは納得したようにそう言った。
「さて、最後は細川さんだけど……その前に」
「?」
琉川さんは、突然立ち上がり、扉のところまで歩いていく。
そして、静かに扉を開いた。
すると、そこには……。
「……あ」
「やっぱり。外から人の気配がすると思ったら。お風呂を覗くだけじゃ物足りずに、部屋に侵入、か……」
「いや、あの、その……」
「天誅!!」
ドゴッ!
物凄く痛そうな音と同時に、晴信が殴られているのが見えた。
……って、部屋に忍び込もうとしてたのは晴信だったんだ。
結局、私の話はそのまま流れたのだった。




