あの男、再び準備をする
「ああ……頭が痛い」
「馬鹿なことするからいけねぇんだよ」
部屋に戻った後、頭を抱えながら晴信が唸っていた。
その部分は、まさしく琉川に桶を投げつけられた場所だった。
自業自得もいいところだぞ、全く。
「んじゃ……宮澤晴信冒険記第二弾と参りますか!」
「……相変わらず復活は早いよな」
ギャグ補正がかかるような場面でのコイツの治癒能力と言ったら、本当に半端ないのだ。
……ギャグ補正って、なんのことだ?
「一応聞くけど……第二弾はどのような内容なんだい?」
先ほどまで風呂に入っていた大和が、晴信に尋ねた。
……というか、大和も少し気になるのか。
「うむ。よくぞ聞いてくれた大和君!」
「……テンションが風呂の時と同じだぞコイツ」
「……ああ。そしてこの時の晴信は、大抵失敗する」
大地の言葉に、俺はそう言葉を返した。
……なんか大地も、随分と俺達に馴染んで来たな。
「名付けて……ドキッ!夜中の女子部屋夜這い大作戦!」
「「「……」」」
予想以上のネーミングセンスだった。
見ただけで、これからコイツが何をするのかが分かったからだ。
……しかし、あまりに安直すぎるそのタイトルと内容に、俺達三人は愕然としていた。
さすがの大和も、これには頭を右手で抑えていた。
「えっと……タイトルからでも分かるけどよ、具体的に何をするんだ?」
「いい所に気付いたな、瞬一!」
「はぁ……」
別にいい所でもなんでもなさそうな気がするんだが。
というか、あまり深く突っ込んではならないような場所のような気がする。
「それではご説明しよう!」
意味もなくハイテンションになる晴信。
……はっきり言って、この部屋から脱出したくなってきた。
「何、簡単なことだよ……夜中に女子の部屋に忍び込む、以上!」
「それで……そんなことして、どうするつもりだ?」
「……エキサイティングする」
ろくに何も考えてなかったんだな。
成功した時の報酬がまるでない気がするぞ。
てか、失敗した時のリスクの方が明らかでかいしな。
「何を言ってるのだね、明智君」
「ちげぇよ」
とりあえず晴信の言葉な突っ込みを入れておいたが、晴信はそれを華麗に無視してきた。
「こういうスリルを楽しむのが、修学旅行の醍醐味だろうが!」
……恐らくそれは一部の奴らだけだと思う。
少なくとも俺は、失敗したら覗き魔の称号が贈呈されるようなリスクだけは負いたくない。
「てか、確実に犯罪行為だぞ、それ」
「何言ってるんだよ!日本の法律にそんな文章が書いてあるのか?」
書いてあるんだよな、それが。
「そういうことだ!」
どういうことだよ。
まったくもって話が繋がってねぇじゃねえか。
「というわけで、11時を過ぎたら出発だ!……あ、瞬一、お前も……」
「行かねえよ」
「即答か……まぁいいだろう」
何かを察したらしい晴信は、俺の発言をそのままスルーした。
……ややこしいことにならなくて良かったぜ。
「んじゃ、それまで戦闘準備をしておくか……というわけで瞬一、早速トランプでスピードだ!」
「準備でトランプかよ……まぁいいけどよ」
そんなわけで、俺は晴信とスピード対決することとなったのだった。
結局、俺の圧勝だったが。




