待ちわびていた時間
ここの旅館は、食事もおいしかった。
夕食には、旅館等でおなじみの小さな鍋と、その他刺身などの料理。
京都と言えば、何と言っても湯葉。
これがまたおいしくて……。
「美味でござりまする~!」
……晴信が、大奥に出てくる三人の女風にそう叫んでいた。
あのキャラって、何故か全大奥シリーズに出てたんだよなぁ、名前こそ違ってる設定だったけど。
「さて諸君。次こそは我らが楽しみに待っていた時間だ。何だと思うかね?」
そして今、部屋に戻ってきた俺達は、何故かいきなり晴信からそんな質問をされたのだった。
「う~ん……自由時間?」
「惜しいな。間違ってないことはない」
「じゃあ、晴信の公開処刑とか?」
「俺全然そんなの期待してねぇよ!俺がそれ楽しみに待ってたら、確実に俺Mだよな!?」
晴信はどっちかというとMだとは思うんだがな。
けど、楽しみに待っていた時間って何のことだろう?
夕食後の予定って言ったら、風呂入って、ミーティングあって、後は11時の消灯時間までは自由時間だったはずだけどな……風呂?
まさか、コイツが言っていることって……。
「もうお分かりになったかね?そう!次の時間こそが、我らが楽しみに待っていた、入浴タイムだ!!」
「「「……」」」
晴信の発言に、俺達三人は一気に黙り込んでしまった。
そりゃそうだろう……晴信からそんな言葉が出てくると来れば、考えられることは一つしかない。
「旅館風呂、露天……仕切りが甘い。ここまで来て覗きをしないわけにはいかないだろう、諸君!」
「……女子にバレてタコ殴りにされるだけだな」
大地がそう言葉を突きつける。
うん、確かにその可能性はかなり高い。
特に、葵とかに見つかったら場合、恐らく一週間は引きずると思う。
「甘い!アンパン○ンの顔よりも甘い!!」
「甘さの基準が分からないよ……」
お、珍しく大和が突っ込みを入れた?
いつもなら笑って流す所なのに……よっぽどわけがわからなかったんだろうな。
「男なら、こういう場所に来た時に女風呂を覗かなくてどうするんだよ!!」
「けどね、確かそういう行為って法律でも違法行為だって書いてある……」
「だからなんだ!男なら、そう言う法律は打ち破ってみろ!大体、規則なんて破る為にあるもんだろうが!!」
ドラマからのセリフのリスペクトはやめろ。
お前、今のセリフは確実にいろんな人を敵に回してるからな。
「そんなに覗きがしたきゃ勝手にやってろ」
「待て、大地!勝手にやってろと言ったか?……無論、お前もやるのだよ!!」
「は!?」
かなり大地は動揺している。
ここまで動揺している大地は初めて見たかもしれないな。
「転入生である君なら、まだこの学校のことに慣れていないだろう。だから、これも俺達男子クラスメイトとの交流を深めるいい機会になるとは思わないかね?」
「思わねぇよ」
即答だった。
あまりに回答が早かったため、少しの間、晴信は言葉を見つけることが出来ないでいた。
だが、そのうち脳内辞書から言葉を引っ張ってきたらしく、
「とにかく、君と瞬一は、覗き結構だからな!いいな?」
「って俺もかよ!!」
何さり気なく俺まで巻き込んでるんだよコイツは!!
俺はまだ自分の命を投げ出したくはねぇんだよ!!
……何回か死にかけてるけど。
「大丈夫だって!お前なら何とか許してくれるって!」
「その根拠はどこから?」
大和が晴信にそう尋ねる。
すると晴信は、無表情で、
「ない」
と、一言だけ言った。
「ないのかよ!?」
「強いて言うなら……なんとなく?」
「お前、ここで裁きの雷落とされたいか?」
「そんなことしたら、修理代支払うことになるけど、いいのか?」
「……ちっ」
晴信に反撃が出来ないまま、俺達はそのまま入浴する為に風呂に行くこととなってしまった。
……この後に、どのような惨劇が待ち受けてるんだろうか。




