旅館にやってきた
それから俺達は、色々回ったな。
金閣寺に銀閣寺。
その他もろもろ……明日もある為、奈良の大仏等はまだ見ていないけど。
そこからバスに揺られること数時間。
夕方の4時50分頃に、俺達は二泊三日で泊まる旅館にたどり着いた。
……てか、八クラスもあるのに、よく旅館も泊める気になってくれたな。
「旅館の人も気が長いんだね~」
「……金が入れば何でもいいって感じだよな。どちらかって言うと」
でも、見た感じで言えば、結構広そうな感じの旅館だ。
聞けば、風呂は露天だという話だ。
極めつけは、何とカラオケボックスまであるのだとか。
……旅館まで来てカラオケボックスかよ。
せめて宴会用の、小型のやつを各部屋に設置でとかにとどめておけよ。
あ、そうすると音が外に漏れてうるさいか。
「ほれ、瞬一。ボサッとしてないで中に入ろうぜ」
「ああ」
晴信に言われて、俺は旅館の中に入る。
ロビーには、あらかじめ前日に俺達が送っておいた荷物が置かれていた。
そこから自分の荷物を探し出し、それを持って部屋に入るのか。
「えっと、俺のカバンはっと……あったあった」
大きい旅行カバンを見つけた俺は、すぐさまフロントに鍵をもらい、
「鍵はもらったから、先に部屋にいるぞ」
「おう」
「分かった」
大和と晴信、そして大地にそう告げてから、俺は一足早く部屋に向かった。
あ、ちなみに部屋のメンバーはこの四人なんだ。
「えっと……二一五、二一五っと……あった、ここだな」
今回の修学旅行は面倒くさい部屋割をしていたりする。
男子は偶数階で、女子は奇数階という、なかなか異質な並び方をしているのだ。
つまり、S・A・B・Cの男子が二階、女子が三階。
D・E・F・Gの男子が四階、女子が五階という振り分け方だ。
……なかなかに奇妙な分け方するな、うちの学校も。
そんな中、俺達の部屋は、ある意味絶好のスポットでもある。
階段のすぐ近くの部屋であり、先生の部屋である二○三からは遠い位置にある。
「晴信は確か、夜中に女子の部屋に飛び込むぜとか言ってたっけな……」
それじゃあ完全に犯罪だ。
ていうか、モラルがなっちゃいないと言った方が正しいか。
「今日の俺は、全力で晴信を止めることにあるのかも知れないな……」
ホテルならまだしも、今回俺達が泊まるのは旅館だ。
しかも、露天風呂だ。
と言うことは、男子と女子の風呂の仕切りは……あってないような物とでもいえるだろう。
まさかコンクリートの分厚い壁がドンと置いてあるわけじゃあるまいしな。
「てか、そこまでするんなら部屋風呂にしとけって話だよな」
とりあえず愚痴はここまでにして、俺は部屋の鍵を挿して、中に入った。
「……おお」
中は、質素な、しかし綺麗で広い和室だった。
部屋の中央には、テーブルが置かれていて、人数分の座布団が敷いてあった。
何より、窓から見える風景が、もう美しいんだよ。
いつまでもこの風景を見たくなるような……そんな感じ。
山が遠くに見え、ひょっとしたら朝日が拝めるかもしれない。
今何か、夕暮れ時に合っているかのように、夕日が山の中に沈んでいく風景が見えてるくらいだ。
「こんな部屋だったら、飽きないかもしれないな」
これだけでも、ここの旅館に対する俺の好感度は、かなり高いものとなっていた。
いやぁ、この修学旅行は収穫が多いぜ、本当に。
「さて、他の奴らが来る前に、荷物整理っと」
俺は他の三人が部屋に来るまでに、荷物の整理を済ませてしまうことにした。




