清水寺にやってきました
晴信に起こしてもらったところで、そこは清水寺だった。
清水の舞台から覗くことが出来る光景というのは……結構いいもんだなぁ。
木々が生い茂っており、他の参拝客が小さく見える。
……こんなに綺麗な場所から人が飛び降りるなんて、信じたくないよな。
「おい、思考がネガティブ方向にいってないか?瞬一」
「ん?俺、また口に出してたか?」
ふと横を見ると、いつの間にか大地が立っていた。
手すりに寄りかかり、大地もまた、俺と同じようにこの光景を眺めていた。
「場所によって、人によって、随分と違う印象を受けるよな……この国って」
「まぁ……そうだな」
突然大地が何を言っているのかよく分からないけど。
確かに……その通りだとは思う。
俺は、ここから見る景色を、『美しい』と思える。
しかし、例えば毎日ここからの風景を眺めている人達から思えば、『相変わらずな風景』と思うかもしれない。
例えばそれがこれから自殺する人だったら、『自分の目に焼き付けることのできる最後の光景』になるんだろうな。
「結論から言ってしまえば、人の考えることなんて、人それぞれだってことだよな……」
「……なぁ大地。お前、何言ってるんだ?」
「……こんな場所に来たから、俺もどうかしてるのかもしれないな」
……それって、大地なりにはっちゃけてるってことか?
そうだよな?そうだって言ってくれ!!
「何取り乱してるんだよ……まぁ、いつまでもこんな平和が来ればいいなとは思ってるけどよ」
「……ん?」
今の言葉を言った時の大地の顔が、一瞬だけ寂しそうだったな……。
気のせいなのか……本当に意識してそういう顔にしたのか。
「なぁ大地、お前……」
「何湿っぽい空気醸し出してんだよ、お前ら!」
ドン!と誰かが後ろからぶつかってきた。
「痛いっつの!……って、お前か晴信」
「瞬一!早くこっちに来なよ~!こっちからも景色も綺麗だよ~!!」
「分かったって!今このアホを撃退したら行くから!!」
「何で俺を撃退するんだよ!!」
反応してる時点で、自分がアホだということを自覚してる証拠だな。
「何というか……うざいから?」
「そんな単純な理由で人を殴ろうとするな!!」
「殴る?魔術かけるの間違いじゃね?」
「もっとひどいわ!!」
まぁ晴信を弄るのもこの辺にしといて、と。
葵達が呼んでるんだったな、そっちに行かないとな。
「よっしゃ!どれどれ……」
「ってこら!俺を置いてくな!!」
ハハハハハ~!!
修学旅行って楽しいなぁ~!!
「テメェ俺のことをアウトオブ眼中にしてるだろ!!」
「え?何?聞こえない?」
「ぶっ殺してぇ……」
怒っている晴信は放っておこう。
「ほら大地、お前も……っていねぇし」
いつの間にか大地は、どこかにいなくなっていた。
……時々俺には、アイツが分からなくなる時がある。
まぁ、知り合ってから一ヶ月ちょいくらいしか経ってないし、当然と言ってしまえばそれまでなんだけどな。
「さぁてと。で、葵?どこからが綺麗だって?」
「ここからだよ!」
「……おお。凄い風景だ」
「ですよね……」
葵の他にも、春香が俺の隣にはいた。
……大地の言葉を借りるわけでもないけど、こんな平和な時間が、いつまでの流れてるといいな……。
最近、学校の方でも事件が起きてるって話だからな……。
だから、今だけでも、せめてこの修学旅行中には、何の事件も起きませんように……。
「次はあそこに行ってみましょうよ!」
「何だよ北条……お前までここにいたのか」
「何よ、いちゃまずいかしら?」
そういうわけじゃねえけどよ……。
てか、北条がいるということは……。
「ん、何だい瞬一?」
「やっぱりか……」
大和がいて当然だという話になる。
んで、北条が次行きたい場所というのは……地主神社か。
どんな所なのか、行ってみるのも悪くはないな。




