喫茶店での会話
「俺はコーヒーで」
「私もコーヒーを」
「僕は……紅茶で」
三人とも自分の飲みたい飲み物を注文した。
店員は、それらを手に持っている、なんていうかは知らないけど、とりあえず機械を操作してそれらを記録して、営業スマイルを浮かべて奥に引っ込んだ。
……そして、何だこの状況。
二人の間で、謎の空気が流れているんだが。
なんというか……重い。
「それじゃあ、そろそろ話しを始めるか」
「そうだね。瞬一君……まずは葵とどういう形で知り合ったのかを教えてもらおうかな」
「それじゃあ私は、織と瞬一がどういう風に知り合ったのかを」
……道中で話したような気もするんだよな、この二つは。
大体、そこまで気にすることでもないだろうに。
「いやいや、結構重大な話だよ、瞬一君!」
「……お前は昔からあんまり変わってないな。強いて言うなら、身長が伸びたくらいか?」
「そういう瞬一君こそ、背が伸びたくらいで、相変わらずの性格だよね」
「そりゃどういうことだよ……」
「それだけ変わらないよさを持ってるってことだよ」
褒められてるのか貶されてるのかイマイチ判断しにくいんだけど……。
織、さり気なく喧嘩売ってるのか?
「ねぇ織」
「何?葵」
「その……もし良ければ、今度小さい時の瞬一の話、聞かせてくれないかな?」
おい、葵。
織と何の約束を結んでやがるんだよ。
織もその約束は結んでは……。
「うん、いいよ。その代わり、中学にあがってからの瞬一の話、聞かせてよね」
「もちろんだよ!ギブ&テイクって奴だよね?」
「……」
駄目だ。
この二人を止める自信が、俺にはない。
ていうか……ある意味で似ているこの二人だからな。
二倍の疲れが、俺に襲い掛かってきそうだぜ。
「お待たせしました」
すると、店員がトレーの上に俺達が注文した、コーヒー×2に、紅茶×1を持ってきた。
それらをテーブルの上に置き、店員は『ごゆっくり』という、心からそうは思ってはないだろうなと思う言葉を述べてから、再び奥に戻って行った。
……なんだこの微妙なタイミング。
全然ベストタイミングでもないし、空気を読んでないわけでもないし。
妥当すぎるだろ、これ。
「つかよ、葵に織。俺の目の前でそんな約束を結ぶなっての」
「「え?駄目なの?」」
「いや、駄目だろ!」
何二人で『何言ってるの?』って顔作ってるんだよ!!
まるで俺が間違ったこと言ってるみたいじゃねぇか!!
つか、さっきまでの険悪ムードは何処に行った?
何利害一致してるんだよお前らは!!
「……ヤバイ、これらすべてに突っ込みを入れてると、疲れる」
ていうか、俺のキャラじゃないような気がする。
こういう突っ込みは、他の奴に任せとけばそれでいいんだよ、ホント。
「にしても、相変わらず瞬一君の性格は変わらないよね……困った人を見つけると、すぐに助けに行くとか」
「ああ。それが俺のポリシーでもあるからな。ある意味では」
「……僕としては、危ない所に行って欲しくないんだけどな」
「……」
織の言葉に、俺は少し言葉を失った。
確かに、他人がピンチに陥っているのを無視してはいけないと思っている。
けど……今まで自分の体のことなど正直考えたことがなかったのだ。
そのことに気づかされたのは……春香の件だな。
あれは、俺の中で何かを変えるきっかけとなっただろうな。
「俺もちょっとあの時は気づかされた。だから、今度からは自分の体のことも考えることにするよ」
「……そうしてくれると、私も嬉しいかな」
笑顔で葵がそう言った。
……あんまり心配ばっかさせるのも悪いんだけど、心配してくれるということに甘えている俺もいたりする。
だって、心配してくれる友達がいるんだから。
「まぁ、お前らのような大切な奴らがいるから、俺も安心して無茶出来るっていうものだけどな」
「……そういうことは、ちゃんと前置きをしてから言って欲しいかな」
ん?
何顔を赤くしてるんだ、二人とも?
「「な、なんでもないよ!!」」
うおっ!
二人で声を揃えてきやがった!!
……なんでここまで息が合うかね、織と葵は。
「ま、時間もあんまりないし、もう少ししたら、喫茶店出るぞ」
その後、俺達は飲み物を飲みながら、いろんな話をした後に、その喫茶店を出て、それぞれの帰る場所に帰って行った。
こうして、終業式の日が、終わったのである。




