謎の感触
「ふぅ~小野田相手にあの術を使うのは勿体無かったかなぁ」
「けど、あの術凄いよ!一体いつあんな術を習得したの?」
帰り道。
俺・葵・春香に加えて、先ほどまで追試を受けていた晴信を加えて、並んで歩いていた。
話している内容は、さっき俺が出した術についてだ。
スパークロアは、そういえばこっちでは出したのは初めてだったか。
「いや、なんとなく習得出来ていたって方が正しいかな……」
「す、凄いです!瞬一君は」
「そうか?ありがとよ」
春香よりお褒めの言葉を頂戴する。
褒められるのは気分が悪いことではないので、俺は少し照れたような表情を見せていた、と思う。
「にしても……晴信の顔がやけに暗いな」
「気にしないでくれ……それに、一応試験の方は……全部埋めたには埋めたけど……適当だ」
「……ドンマイ、晴信」
どうやら追試の方も駄目だったみたいだな。
うちの学校では、まず定期テストで赤点を取った場合、追試を受けることになっている。
これの最低ラインは40点。
39点以下を取った時点で、その生徒はアウトということになる。
まぁ、そんな生徒の為の救済措置として、最後の頼みの課題提出というものがあるのだが。
これを夏休み中にやって、先生に提出さえすれば、40点まで引き上げてくれるというシステムだ。
……最も、これが結構きつい物であり、ただでさえ多い夏休みの宿題に加えて、赤点課題まで加わると……最早夏休みはないも当然のものとなるだろう。
しかも今年は修学旅行もある……これが終わらなければ、素直に楽しむことが出来ないのだ。
「ああ……頼む。せめて40点は行ってくれ……」
「珍しく晴信が神頼みしてる……」
「これはよっぽどテストの結果が……」
「駄目だったんですね……」
上から順に、晴信・葵・俺・春香の発言だ。
晴信は、地面に両膝を着けて、両手を合わせて空に向けて、神頼みをしていた。
……すごく恥ずかしいから、今すぐやめてくれ。
「ほら。いつまでもそんな馬鹿なことやってないでさっさと行くぞ」
「ま、待って!置いていかないで!!俺に救いの手を差し伸べてくれ!!」
「気持ち悪いからそれやめろ!」
なんかすごい形相でこっちに向かってくる。
こ、これは気味が悪い……。
「晴信……普段から勉強していればこんなことになんなかったのに……」
「お、俺だってこんなになるとは思ってなかったんだよ!!」
いやいや、多少想定内の範囲だろ。
まったく勉強している素振り見せてなかったら、いくらなんでも赤点取ってしまうって。
「しかし、お前あれだな……一ヶ月授業に出てなかった俺が追試逃れてて、無遅刻無欠席のお前が追試を受けるとは、どういうことだよ」
「知らねぇよ!これはきっと、アイツら先生の陰謀だ!俺を罠に陥れようとしてるんだ!!」
「ついには他人のせいにしてますけど……」
「ほっとけ。あれはもう、いつもの発作みたいなものだから」
晴信の行動一つ一つに突っ込みを入れてると、こっちが疲れる。
だから、スルー出来るものはしてしまった方が、こっちの体力も減らなくて済むというものだ。
「てか、いつの間にかもう分かれ道か」
そんなことをしている内に、寮へ行く道と、そうでない道の二つに差し掛かった。
「あ、俺今日はこっちに用があるから。先に寮に帰っててくれ」
そう言ったのは、晴信だ。
「そうか?……まぁ、別にお前と寮の部屋が同じってわけでもないし、とっとと自分のペースで帰っちまうけどな」
「おいおい……」
「私も買い物をしなければいけませんので」
おや、春香もか。
……そう言えばあの日以来春香の兄に会ってないけど、元気にしてるのかね?
まぁいいや、今度見に行けばいいや。
「じゃあな、晴信、春香!」
「おう!また修学旅行でな!!」
「何言ってるのよ!夏休み中も部活あるからね!!」
「マジで!?」
当り前だろ、晴信。
夏休みに部活やらない所なんて、そうないだろ……。
「それではまた今度の部活で会いましょうね!」
「ああ!」
そう言うと、晴信と春香は別の道に行ってしまった。
一方で、俺と葵は二人きり。
……寮に帰る道と、葵の家が同じ方向にあるので、必然と言えば必然なのだが。
そして、前を向き二人で帰ろうとしたところで……。
ドン!という衝撃音と共に、誰かとぶつかる感覚を感じた。




