通り魔事件について、その名前は……
「えっと……ここは3でいいのか?」
「違う違う。時・条件を現す節では、現在形の動詞を使って未来を現すんだよ」
「なぁ大和、ここはこれで合ってるのか?」
「……晴信、何で主語が『I』なのに、『are』を使ってるんだい?」
晴信……お前、真面目に授業受けてたのか?
いや、最早それ以前の問題だぞ、それは。
俺の方は、どうやら学校に行ってなかった一ヶ月の内に新しく学んだ知識らしくて、通りで俺が知らなかったわけだ。
「お姉ちゃん、ここは……?」
「えっとね、これは過去完了進行形って言ってね……」
葵は妹の空の勉強を見ていた。
まぁ、元がしっかりしているから、姉妹共々大丈夫だろうな。
「あ、そう言えば大和」
「ん、何?」
その時。
何かを思い出したらしい晴信は、大和の名前を呼んだ。
何の話なのだろうか……?
「一つ気になったことがあるんだけど、いいか?」
「何だい?」
「瞬一に、あのことを話さなくていいのか?」
俺に?
それに、あの事ってなんだ?
「おい、あの事ってなんだよ?」
「ああ……君がいなかった一ヶ月間の内に起きたことを話しておこうと思ってね」
ああ、それは少し気になるな。
ここ一ヶ月間の動きが気になってた所だしな。
「まずは、晴信の言ってることではない方から話すよ。まず最初に、ここ最近発生している事件についてだ」
「事件?」
また何かが起きていると言うのだろうか?
……とてつもなく嫌な予感がするぜ。
「毎週水曜日に、決まって誰かが襲われるという、所謂通り魔事件だ」
「通り魔事件?……それはまた物騒な」
「その事件の被害者って……みんなこの学校の生徒なのよ」
「なっ!?」
大和の後に続くように、北条が言葉を続けた。
……俺がいない間に、そんなことが起きていたとは。
「決まって背中を、刃物か何かで斬りつけられてるんだよ。これまで命を奪われた件は見られてないけど、襲われた人達はみんな重傷を負っていて、今でも入院中らしい」
「……」
そんなことが起きていたとは……。
何処の愉快犯が、そんなことを……ん、ちょっと待てよ?
「一体、何処の誰がそんなことを……」
「……待てよ、空。犯人は、意外と俺らの近くにいるかも知れないぞ」
「「「「「え?」」」」」
葵・晴信・空・春香・北条の五人が声を合わせる。
「まず、襲われてるのがうちの生徒に限定されてるのが怪しい。次に、期日が決まっているところかな。ただ単に人を斬りたいだけなら、それこそ決まった曜日なんか考える必要はないはずだ。最後に、決まった斬り方をする点だ。もしかしたら何か意味があるのかもしれないな」
「「……」」
何故か大和と大地の二人がポカンとした表情を浮かばせていた。
……何でだ?
「……よくこの短時間で、そこまでのことが考えられたな」
「まぁな。ちょっと考えれば分かることだけどよ」
大地が驚いたような声を挙げたのに対して、俺は冷静に答えた。
「こんな物騒な話は終わりにしようぜ。それで、まだ話はあるんだろう?」
「ああ……つい先日に、君の知り合いだという人物が学校に来たんだよ」
「俺の知り合い?」
それはそれで気になるな……。
わざわざ俺の所を訪ねてくるなんて。
……俺、その頃別世界にいたわけだけど。
「名前とかは聞いてないか?」
名前を聞かないことには、誰かの判断もつかない。
なので俺は、大和にそう尋ねた。
すると、
「名前は……神山織って言ってたよ」
「……神山織?」
何だろう。
何処かで聞いたことのあるような、ないような名前だな……。
……待てよ、神山織?
「……思い出した!」
そうだ、思い出した!
神山織って、確か……。
「俺の幼馴染みじゃねえか!!」




