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Magicians Circle  作者: ransu521
神山織編
154/309

取り戻された感情

「……え?」


ここからでも分かるような声で、晴信が驚いているのが耳に聞こえてきた。

まぁ、驚くのも無理はないよな。

あんなことを言った後に、すぐ俺から返事が返ってくるなんて、誰が想像出来ようか?……いや、出来ない。


「お、おい。俺はあれか?今、幻聴でも聞こえたのか?……瞬一の声が、耳に入った気がするぞ」

「しゅん……いち……?」


か細い声が聞こえてきた。

……この声、もしかして葵なのか?

あと晴信、人の発言を幻聴呼ばわりするたぁいい度胸だな。


「幻聴じゃねぇよ。俺だ俺!」


ガラッ!

俺は勢いよく教室の扉を開く。

そして、久しぶりに二年S組の空気を吸った。


「あ~やっぱりここは落ち着くぜ。みんな、元気にしてたか?」

「き、君は……」

「ああ。三矢谷瞬一だ。言っとくけど幽霊じゃねぇぞ?ちゃんと足あるからな。晴信の考えてることはお見通しだこの野郎」

「え、バレた!?」


何が『バレた』だこの野郎!

本気で考えてやがったのか!

冗談で言ったつもりだったのに……。


「……瞬一?そこにいるのは、瞬一なの?」

「ああ。間違いなく、俺……!?」


葵の声がしたのでその方を向いてみれば……なんてことだ。

虚ろな瞳には、光りなど宿っておらず、およそ感情なんて物は存在していない。

……俺がいない間に、何があったって言うんだ。


「違うよ。君が居ない間になにかあったんじゃなくて、君がいなくなったから、こうなったんだ」

「大和……?それは一体……」


大和がそう言ったのに引き続いて、


「そうよ。アンタがいきなり行方不明になんてなるから、細川さんからは感情がなくなり、一之瀬さんは自分を責めるようになったのよ」

「俺が……原因だったのか」


知らなかった。

俺が行方不明になったから、二人がこんなことになっていたなんて。


「葵、一之瀬……悪かった。俺がいきなり行方不明になったばかりに」

「いえ、もういいんです。私が原因で、瞬一君がこんな目に……」

「お前が原因じゃねぇよ。俺が勝手にやったことだ。だからお前は自分を責めるな、春香」

「?!」

「は、はるか?」


俺が一之瀬のことを下の名前で呼んだものだから、一同が驚きの声をあげた。

……そんなに驚くことかよ。


「折角友達になったんだ。これからはもっと親睦を深めるって意味で、これから一之瀬のことは春香って呼ぶことにするよ」

「は……はい!」


一之瀬……いや、春香は笑顔になって返事をしてくれた。

うん、その笑顔だ。


「俺が見たかったのは、欝な表情じゃない。その笑顔だよ」

「!!」


瞬間。

春香の顔がボン!と赤くなった……ような気がした。

今はまだどういった対応をするべきか迷ってる様子みたいだけど、春香の方は恐らく、すぐにいつもの春香に戻ってくれるだろう。

問題は……。

「……葵」

「瞬一……本当に、瞬一?」


感情を奪われて、まるで人形みたいになってしまった葵を、どうするか……。


「ああ……間違いなく俺だ。三矢谷瞬一だ。心配させて悪かった……葵。心配してくれて、ありがとうな」

「あ……あ……」

「泣きたければ、泣けばいい。怒りたければ怒ればいい。頼むから、そんな表情を見せないでくれよ……頼むから、前の笑顔を見せてくれよ」


俺は、誰かが悲しむ表情を見たくはないんだよ。

もう、誰かを悲しませたくはないんだ……あの日の過ちだけは、繰り返したくないって思ってたのに。

あの時から、何一つ成長してないじゃないか!


「う……ああ……」「……泣きたきゃ俺の胸貸してやる。怒りたきゃ俺を気が済むまで殴るがいい。どっちもしたきゃ、どっちもさせてやる……だから、これだけは、約束させてくれ」


もう、過ちは犯したくない。

だから俺は、葵に―――みんなに言ってやる。


「もう俺は、勝手に目の前からいなくならないって……お前らより先に、勝手に死んだりしないって……約束してやるよ、葵」

「あ……ああ」

「……泣け、葵。今まで溜め込んできたんだろ?今がそれを出しきるチャンスだ。そしてその後に笑えばいい。俺はここにいるから。黙ってお前がやることを、見守っててやるから」

「う……うわぁああああああああああああん!!!!」


葵の心の中で、何かが崩壊したのだろう。

今まで無表情だったのが嘘のように、葵は泣き始めた。

……今はその涙、受け止めてやるから、思い切り泣け、葵。











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