校長の言葉
職員室まで到着した俺は、一先ずそこで大地とは別れた。
職員室に行って担任に顔を出すのでもよかったけど……まずは校長からだよな。
偉い人から順番に報告しに行く、なんとなくそう思った。
「さて……」
コンコン。
扉をノックして、相手からの返事を待つ。
「うむ。入ってよいぞ」
「失礼します」
許可が下りたので、俺は校長室の中に入った。
その瞬間だった。
「むっ……!」
「な、何ですか?」
いきなり校長は目を見開いた。
え、何。
俺がここに来たことがそんなに珍しいことか?
「……三矢谷瞬一かね?」
「はい。三矢谷です。昨日の夕方に、何とかこっちに戻ってこれました」
「……皆が心配しておったんだぞ。今までどこに行っていた?」
低い声で、校長が尋ねる。
何というか……今までで一番校長らしい声で。
「あの日、瓦礫の山の中に埋もれそうになった俺を……とある人物が助け出してくれたのです」
「ふむ……」
「その人の力によって、俺はこの一ヶ月間、島に行ってました」
「サマラ……世界と世界を繋ぐ世界、か。あそこに行ったのかね?」
どうやら校長は、島のことを知っているみたいだな。
……俺も今回初めて知ったというのに。
さすがは校長だ、本当にこの人若い時に何してたんだか。
「はい。それで、その人から島を救って欲しいと言われたので、命を助けてくれた恩返しに……みんなを守るために、戦ってきました」
「なるほど……それで一之瀬春香・辰則の家からお主のことを発見することが出来なかったというわけか」
「そういうことです」
本当にみんなには迷惑をかけたな……。
後で謝らなくてはならないな。
「本当に……すみませんでした」
「謝る相手は私ではない。他に謝るべき相手はおるだろう?」
「……はい」
謝るべき相手。
クラスメートは勿論のこと、葵達にも……一之瀬にも謝る必要があるよな。
俺を心配してくれたすべての人達に、謝罪を……。
「謝罪だけではない。礼も言わねばならぬぞ」
「礼……ですか?」
「うむ。お主のことを心配してくれた者達が本当に求めているのは謝罪ではない。心配してくれた者達が求めていたもの、それは相手の無事だ」
「相手の……無事」
「謝罪を求めて、見返りを求めて心配しているのではない。ただ、相手のことを大切に想う気持ちがそこにあるから、人は心配をするのだ」
「……」
校長なりの哲学が、俺の心に響いてくる。
心配している人達が求めてるのは謝罪ではない……か。
確かに、謝ってもらいたいから、他人を心配したりするものでもないよな。
気になっているか、その相手のことを大切に想っているからこそ、俺達人間は心配をするんだよな。
「……けど、今回ばかりは謝らなければいけないと思うんです。心配させてゴメン、と……心配してくれて、ありがとう、と……」
「……それでお主の心が晴れるのなら、そうするがよい。とりあえず、教室に戻りたまえ。後はお主の好きなように振る舞うがよい」
「……はい!ありがとうございました、校長先生!」
俺は校長に一言そう告げてから、校長室を出た。




