窓から侵入
Side深夜
窓から侵入しろなんて話、さすがにちょっと無理があるだろうに。
何故かと聞かれると、それは窓がどう考えてもビルで言うところの三階部分に位置するからである。
「……どうするよ?これ」
「……すまん、さすがに分からない」
竜平も、流石にこれにはお手上げのようだ。
「……私の力で、何とかなりそう」
マジで!?
美紀の力でどうにかなりそうなのか。
「……そう言えば、美紀の能力は創造だったな」
美紀の能力は……創造だ。
自らの脳内でイメージしたものを、実際に具現化することが出来る能力だ。
「イメージか……便利な能力だな」
「そうでもない。私が出来るのは、ただそれだけだから」
それでも十分凄いと思うのにな……。
「私なんか、相手に錯覚を見せる能力だけだよ?後は戦闘訓練で身に付けた護身術くらいなんだから……竜平のように物を転移させることも出来ないし、美紀みたいに何かを創り出すことが出来ない。正真正銘、この中で一番戦闘に向いていない能力だよ……」
「そんなことはないだろ、な?竜平」
「あ?ああ……塚本が錯覚を相手に見せているおかげで、戦闘もスムーズに進むわけだからな」
「……本当に?」
「ああ。もちろんさ」
竜平にパスを渡して、竜平自身はそのパスを受けてうまくフォローを入れた。
……ふぅ、何とかなったか。
「……よし。それじゃあ美紀。やってくれ」
「分かった……創造、開始」
両手を前にかざし、集中する美紀。
すると、三階部の窓から、どんどん地面に梯子が伸びていくのが見えた。
やがて、それは完成し、完全にそこに『存在』していた。
「すげぇ……これが、美紀の力」
「やったな!美紀!」
「……ありがとう」
若干顔を赤くして、美紀はお礼を言う。
……赤くなる要素が、どこかにあったか?
「「鈍感」」
「え?……少なくとも、竜平にだけは言われたくねぇよ!」
「んなっ!?……俺が鈍感だなんて、そんなことは……」
「「五十歩百歩。どっちも鈍感」」
……美紀と綾音の二人にそう言われてしまい。
俺と竜平は、返す言葉もなかった。
「……さて、それじゃあこの梯子を使って上へ行くとするか」
「とっても、窓は鍵がかかってるんじゃ……」
「ちょっと騒がしくなるけど……」
そんなことを言いながら、俺は右手で石を掴み、それを窓に投げつけようとする。
だが、
「……そんなことする必要はない」
「え?」
竜平が、俺の行動を止める。
……いやいや、割って中に入ること以外、他に方法がないだろ。
「……俺がまず上に行く。そしたら、お前らがついてきてくれ」
「……分かった」
ここは竜平の言うとおりにしよう。
ひょっとしたら、竜平には何か策があるのかもしれないからな。
「……よっと」
竜平は、軽々と梯子を登っていく。
高さなんてなんともないかのように、どんどん登っていく。
やがて完全に登りきった時に、
「……よし」
「……?」
右手を、窓に当てた?
そして……。
「……もう中に入れるぞ」
「……え?」
「何が、起きた?」
俺と美紀は、何が起こったのかよくわからなかった。
綾音はどうやら分かっているようで、勝手にどんどん梯子を登っていく。
そして、上にたどり着いた時点で……竜平と綾音は、中に入った!?
「嘘だろ……窓の鍵を開けてすらないのに」
「……とにかく、上に行こう」
「……だな」
美紀に言われて、俺達も梯子を登る。
俺が上で、その次に美紀という形だ。
やがて梯子の一番上、すなわち窓に到達した時に……。
「……おい、マジかよ」
そこには、窓と呼べるものが、なかった。
「こんなことも、あり得るんだな……」
感心してる場合じゃない。
とりあえず俺と美紀は中に入り、竜平にあの窓のことを聞いたら、
「ああ、あれは俺の能力でどこかに飛ばした」
「……飛ばした?」
「物体移動。それが俺の能力なんだ……ちなみに、塚本の能力の名前は、錯覚映像っていうんだ」
「「へぇ……」」
二人して感心する。
名前がつくと、何だかカッコイイな……。
「先を急ごう。早くみんなと合流するんだ」
「ああ」
竜平が言った通りだ。
今はいち早くアイツらと合流するのが先だ。




