徒労
さて、俺は今、一人でこの世界を歩いているわけだが。
一応この世界にも住人はいるらしく、歩けば何人かの人に会うことが出来た。
流石に現地の人に、
「すみません。アムステルダムの住む城は何処ですか?」
なんて聞くわけにもいかない……というか、聞いても意味がないことをついさっき悟ったばかりだ。
何故なら、何も考えずに、近くにいた住人Aにそう尋ねてみたところ、
「え?アムステルダム?アダムとイヴの間違いじゃないのかい?」
なんて切り返しをされたからだ。
……M―1で言うところの予選落ち並なボケだったぞ(しかもわざとボケたわけではなく、真剣に分からなかったそうだ)。
つまり、少なくともこの世界の住人達は、アムステルダムの存在を感知していないということになる。
これは恐らく……。
「アムステルダムが、外部の世界からやってきた人間という可能性もあるな」
外部から来た人間だから、この世界の人間達はその存在を知らない。
つまり、逆に考えてみれば、何か変化があったとしたら、それはつまりアムステルダムに繋がる可能性もあるというわけだ。
「成る程……なら、アムステルダムのことについて聞く必要はないな」
俺はとりあえず、『最近何か変わったことはないか』という部分から責めていくことにした。
そして、次に述べる文が、その結果である。
住人B。
「いやぁ~特になかったと思うけどね……ところでアンタ、モデルになってみない?」
「いえ、結構です」
住人C。
「ワシは何も知らんとよ。変わったことと言えば、ワシはアンタのこと見たことねぇだよ」
「まぁ……俺はこの世界の住人じゃないからな」
「へぇ~世の中には不思議なこともあるさね」
住人D。
「最近変わったこと?私に聞かれてもそんなこと知らないわよ。それに何アンタ?見たこともないような服装して、一人でいる私に話しかけるなんて……もしかしてナンパ?」
「誰がテメェみたいなガングロ相手にナンパなんかするか」
住人E。
「変わったことね……そう言えば最近」
「何かあるのか!?」
「……近所の娘さんが、元気な赤ちゃん生んだとか」
「おめでた話を聞きにきたわけじゃありませんから」
結果。
何の情報も集まりませんでした。
十分で四人に聞いてみたが、どいつもこいつも使えない情報ばかり。
なんで俺がモデルにならなきゃならないんだよ。
それに俺は、ナンパなんかしにきてねぇし、赤ちゃん出来たなんて話を聞きにきたわけでもないから。
ったく、マイペースな住人だな、本当に。
「……このままじゃ埒が明かないぞ」
て言うか、本当に日が暮れてしまいそうで恐いな。
……マジでなんとかしないとな。
「……兄さん」
「……ん?」
その時。
後ろから誰かに話しかけられた。
誰だろうと思い、後ろを振り向いてみると、
「……誰だ?アンタ」
およそ怪しい格好をした男が、そこに立っていた。
その人物は、季節に似合わない黒いコートを羽織り、全身を黒いスーツで隠し、サングラスをつけていて、頭には黒い帽子を被っていた。
サングラスと帽子のせいで、素顔がまったく判別出来ないでいた。
「安心しな。怪しい者じゃねえから」
……無茶苦茶怪しいんですけど。
怪しくないっていうのなら、せめてそのサングラスを外しやがれ。
「……お前らにとっていい情報を与えてやろう」
「!!本当か?」
「ああ……ただし、それなりに対価となるものは要求するやもしれぬがな」
「……分かった。話に乗ろう」
俺はその男の後について。
路地裏に行くこととなった。




