少年の名は
中に入ってみると、そこはとてつもなく広いところだった。
……デカイ城だな、こんなに大きな城があるなんて、俺は今まで知らなかったぜ。
アイミーの城よりもデカイんじゃないか?
「大きな城だね……」
「こんなに大きな城は見たことない……ってか、城自体始めて見た」
まぁ、普通に暮らしていれば、城なんてなかなかお目にかかるものではないよな。
……って、コイツら全然普通に暮らしてないじゃねえか。
寧ろ、俺よりも現実から外れた生活してるんじゃねえの?
「今、自分の方が現実的な生き方してるって思っただろ」
「まぁ……否定はしないな」
「実際にそうなんだから仕方ないか」
勝手に話題振っといて勝手に終わらすな。
「ようこそ、僕のお城へ」
と、そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
……この声、まさか。
「ん?」
声がしたのは、目の前の扉の向こうからだった。
……というか、どうやって俺達が来たことを把握したのだろうか。
「今そっちに向かいますね」
そう言うと、目の前の扉が開かれて、そこから何者かが現れてきた。
その人物は……少年だった。
少し長めの赤髪が特徴で、恐らくは美少年という響きが一番しっくりくるのだろう。
そして……一番気になったのが、
「……あのネックレス、光ってないか?」
将吾がそのことを尋ねてくる。
俺も気になったが……どうやら麻美と将吾の二人も同様の意見らしい。
「みなさん、はじめまして。僕の名前はモテラスといいます。意向、お見知りおきを」
「あ、どうも……」
紳士のように、右手を腹部に当てて、お辞儀をする。
思わず俺達は、お辞儀をし返してしまった。
「俺は三矢谷瞬一だ。こっちが……」
「知っています。女性の方が村上麻美さん、そして刀をぶら下げた男性の方は、桜咲将吾さん、ですよね?」
「……ああ、そうだな」
「うん、合ってる。けど、どうして……」
二人が不思議がる。
まぁ、それは同じ気持ちだ。
なにせ、見ず知らずの人に、自分の名前を当てられる程、気味悪いものはないからな。
「知っていて当然ですよ。僕があなた方をこの世界にご招待したのですから」
「「「……え?」」」
じゃ、じゃあ……コイツ一人が、俺達三人をこの世界に連れてきたってことか?
「あなた達だけではありません。すでに三人、後六人連れてくる予定です」
「それで私達三人だから……十二人も!?」
「多いな……」
相当呼んでるんだな。
俺達だけでは不安なのか、それとも……。
「まだ少ないくらいですよ。あれに対抗するには、むしろもう少し人員が欲しいくらいです」
「彼って誰だ……の質問の前に、一つだけいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「よくも俺のことをあんなところから落としてくれたな!!」
さっきモテラスは、この世界に俺達を呼んだのは自分だって言ってたな。
つまり一人……俺をあんな位置に転移させたのもコイツだってことだよな!
「マジで死ぬかと思ったんだぞ!転移させるんなら、もう少しまともなところにさせやがれ!」
「すいません……少し忙しかったもので♪」
「俺だけじゃなかったんだな……落とされたの」
後ろの方で将吾が呟くのが聞こえた。
やはりコイツ、男と女で扱いを変えてやがる!
「これは然るべき処置をとるべきだよなぁ?」
「やめておいた方がいいですよ」
「命乞いしたって無駄だからな!」
とりあえず俺は、コイツをぶっ飛ばさないと気が済まない……!
ゴキッ!
「ゴキッ?……いってぇええええええええ!!」
なんか、骨が折れたような音がしたんだけど!?
物凄く足が痛いんだけど!!??
「……まだ完全に治療しきれていなかったんですね。だからやめておいた方がいいって言ったのに」
「分かってたら、殴りにいかねぇよ……」
その後、話は俺の怪我が治るまで一時中断となったのだった……なさけないな、俺。




