暗躍する影
現れてきたのは、やはり一人の男だった。
歳は予想通り、俺と同じくらいだろう。
短くて茶色い髪、黒い瞳が特徴であろう。
腰には、刀をぶら下げている……日本刀か?
「……お前のぶら下げてるの、それ」
「ああ、日本刀だよ。いやぁ久しぶりに日本人にあった気がするぜ」
『久しぶりに』?
コイツは一体どんな境遇に陥っているっていうんだ?
「いやな、俺は一回交通事故で死んでて……別の世界にトリップされてたって時に、ここに連れてこられたってわけだよ」
「……お前も相当苦労してんのな」
ていうか、俺より相当苦労してるな。
ひょっとして俺、まだ恵まれてる方だったりしない?
「ま、とりあえずまずは自己紹介って所だな」
俺がそう提案すると。
「だな……俺は桜咲将吾。お前らは?」
「私は村上麻美だよ」
「俺は三矢谷瞬一だ」
桜咲将吾か……将吾の方が響きがいいな。
「んじゃ、お前のことは将吾って呼ぶことにするよ」
「ああ、そっちの方が助かるよ。お前は……瞬一って呼んだ方がいいか?」
「だな。村上にもそう呼んでもらってるし」
「なら、麻美って呼んであげなよ」
はい?
将吾、お前は何を言ってるんだ?
「うん、そっちの方がいいかな」
「おっとそうだったか……なら、麻美に修正するとしよう」
まぁ、名字で呼ぶってのは少し他人行儀かな?
……一之瀬と大和のことは名字で呼んでるんだよな、俺。
帰ったら名前で呼ぶことにしようかな……でも、大和は何か名字で呼んだ方がしっくりくるんだよな。
名前は確か、『翔』だったっけ。
……うん、やっぱり大和は大和だな。
「んじゃ、互いの境遇を話しながら、とりあえず城に向かってみるか」
「だな。いつまでもここにいても何の意味もないしな」
とりあえず、俺達三人は、この場から離れて、城に向かうこととなった。
Side???
「ふむ。この世界に、駒がそろい始めているか」
サマラの全景を見ながら、私は一人呟いていた。
この世界というのも、活動のし甲斐があるというものだな。
……世界と世界を繋ぐ世界、それが島。
「この世界をなくしてしまうのは惜しいがな……これも計画の為の第一歩だ」
魅力的な世界ではある。
出来ることなら、このままの形で残しておきたい世界だ。
……だが、世界崩壊を招くのであれば、この世界の存在は大いに邪魔だ。
この世界があるからこそ、数多ある世界は均衡を保つことが出来る。
そのためには……集まってきている駒がどうしても必要となってくる。
相手の駒が増えれば増えるほど……こっちの駒が増える。
つまり、この戦いは、最初から平等になるように仕組まれているということだ。
相手が増えてくれれば、こっちも勝手に増えていく。
……一体すでにやられてしまったが、そのくらいは補えるだろう。
それに、ダミーはいくらでも作ることは可能だしな。
「……クリエイターのやつも、この方法だけは思いつかなかったようだな」
脚本家かぶれのあの男……私はどうも好きにはなれないな。
あの男の計画は、いつも完璧を求めすぎる。
自分の書いた脚本に自信を持ちすぎていて、それでいて穴を突かれると、たちまちこちらに責任をなすりつけてくる。
……あれは脚本家としては、失敗の部類に入るだろうな。
「だが、私は違う」
私は脚本家ではない……。
もとい、最初からそんなことが出来るたちではないのでな。
そうだな……クリエイターが脚本家であるのなら、私は演出家と言ったところだろうか?
世界を整える為に奮闘する首謀者。
……ふむ、なかなかに響きが良い言葉だな。
「……すべての駒がそろった時、この戦いは幕を開ける」
開幕を告げるにはまだ早いな。
それには駒が少し足りない。
……おや、また新たな駒が一つ増えたようだな。
……用意されるべき駒の数は、12。
残りは……6つだな。




