可能性の問題
Side晴信
「え?瞬一先輩がいなくなった?」
俺が瞬一のことを言うと、植野姉妹は驚きの色を見せた。
それだけではない……優菜に至っては悲しみの色すら伺えた。
「そんな……瞬一先輩が行方不明なんて……」
「ただ行方不明になってるだけでしょ?それのどこに、悲しむ要素があるって言うのよ?」
いまいち刹那の方は理解しきれていないようだ。
仕方ないから、その状況を大雑把ながら説明することにした。
「実はな、この前に一之瀬の家に行ったんだけどよ……その時にいろいろあってよ、一之瀬の家の一部が崩壊したんだよ」
「一之瀬先輩のが……ですか?」
「……」
コクリと、言葉を発しもせずに、一之瀬はただ頷いた。
それを見てから、俺は更に説明を続けた。
「その崩壊に……瞬一は巻き込まれたんだ」
「そ、それじゃあ……瞬一先輩はもしかして……」
「いや、多分そうではないと思うんだ。残っていたのが、破れた服の一部だけだったんだよ」
「服の一部だけ……あれ?」
ここで、刹那が何かに気付いた。……けど、何に気付いたって言うんだ?
「建物が崩壊したというのに……どうして瞬一先輩の姿が見えないの?」
「それは分からないけど……もしかしたらまだ生きている可能性は高いってのは確かだな」
「そのことは問題じゃないのよ」
どうやら刹那が言いたいのはそのことではないらしい。
「じゃあ……何が問題なんだよ?」
俺は刹那にそう尋ねる。
すると刹那は、
「どうして瞬一先輩が、その場所にいなかったのか、についてよ」
「瞬一が……その場所にいなかったこと?」
その場所にいなかったということは、少なくとも瞬一はまだ生きているということだろう。
つまりは……どういうことだ?
「生きてる死んでるはともかく、どうしてその場所にいなかったのかというのが問題なのよ。つまり、崩壊してすぐにその場所を探したのだったら、逃げられるはずもないし、埋まってるはずじゃない?」
「……言われてみれば、確かにそうだな」
そう言われてみると、そうだな。
崩壊した建物の中から瞬一が出てこなかったのは、明らかにおかしいよな。
つまりは……。
「瞬一は、あの場所から瞬間的に移動した?」
「もしくは、何者かによる力によって……何処かに転移された、とかね」
なるほどな……その可能性も否定は出来ないということか。
まさか、別の世界にでも飛ばされたのか?
……いやいや、並行世界があるとも思えないしな。
これは違うだろうな。
「……世界の移動も考えた方がいいかもしれないわね」
「はい?」
刹那までそんなことを言い出すとは……。
その可能性はないだろうな。
「さすがにそれはないだろうな……並行世界とかの存在を聞いたことないしな」
「あら?宮澤先輩は知らないの?」
「何を?」
この状況下において何がどうなったらそういう話になるのだろうか?
気になって、聞き返す。
「この世界には、複数の世界が存在していて、ここはその世界の中の一つにしか過ぎないのよ」
「世界の一つにしか……過ぎない?」
えっと……つまりは、こことは違う別の世界が存在するってことか。
それじゃあ……並行世界は存在する?
「そうみたいよ。実際ニュースとかでも、世界と世界の中間地点に行ったことがある人がいるって話も聞いたことあるわよ?」
「マジかよ……」
そうなると、探す場所を考え直さなくてはならないってことか。……。
ま、とにかく探さなければ始まらないってことで。
「とにかく、俺達は俺達の方法で、瞬一を探す……早速今日から行動開始だ」
「……そうですね。善は急げ、ですよね」
優菜が同意したことで、
「ゆ、優菜が探すのなら、探してあげないこともないけど……」
と、刹那も同意した。
一之瀬も、首を縦に頷かせたので、探す意志はあるらしい。
「んじゃ、行くぞ!」
早く瞬一を探し出さなければ……。
一之瀬の精神状態のこともあるし、葵の件もあるしな……。
次回、久しぶりに瞬一を出そうと思います。




