煮え切らない怒り
Side晴信
校長室から出た俺達は、自分達の部室に行くために、途中で二組に分かれた。
俺と一之瀬は魔術格闘部に、大和と北条は剣術部なので、見事にニ対ニで分かれたのだった。
ただな……こっちは部長不在の状態だし、瞬一は行方不明だし、一之瀬は先程から何かを話せるような状態ではないしな……。
つまり、まともに話せるのが俺くらいしかいないんだよなぁ……。
最も、俺達を除けば、部員は二人しかいないから、まだましな方ではあるな。
「……おい、一之瀬」
「……」
反応なしか。
まぁ、ついてきてはいるから、今はそっとしておいてやるか。
「……ふん。随分とおめでたい奴らだな」
「!!」
背後から聞こえてきた、不機嫌な声に、俺は反応した。
俺が後ろを振り向いたものだから……少し遅れて、一之瀬も同じ方向を向いた。
「……なんだよ、お前」
そこには、由雪迅の姿があった。
……今コイツに話しかけられる筋合いはねぇぞ。
「……何にも用がないなら、俺達は行くぞ。そんなに暇じゃねえからよ」
そう言って、俺は一之瀬を連れて部室に行こうとした。
すると。
「……三矢谷瞬一が、今日は来ていなかったな」
「!!」
もう一度、俺は後ろを振り向いた。
今度は一之瀬も、自分の意思で振り向いた。
……恐らくは、瞬一の名前が出てきたからだろう。
「だからどうしたって言うんだよ?」
俺は警戒するような目で、由雪のことを睨みながら言った。
俺達の間には……決していい空気は流れてはいなかった。
「知ってるぞ?……“悪魔憑き”にあったんだってな、そこの女」
「!!」
「悪魔……憑き?」
聞きなれない単語が飛び交ってきた。
なんだ、その……“悪魔憑き”ってのは。
「“悪魔憑き”ってのはな、闇魔術習得の際に必要となってくる状態ということだ。簡単にいえば、準備段階とでも言っておこうか……主に自我を保てなくなるとか、症状は色々だがな」
「……あれが、そうだったのか」
確かに、一之瀬は自我が失われていた状態があったが、それが“悪魔憑き”とでもいうのか。
「その時に、三矢谷瞬一は建物の崩壊に巻き込まれて、行方不明か……」
「!!……どうしてそこまで知ってるんだよ」
先生も、もちろん俺達も、他人にそのことを話してはいないはずだ。
なら、コイツはなんで、そのことを知っているんだ?
「話しているのが偶然聞こえただけだっての。特に深い意味はねぇ」
「……瞬一は俺達で探すことになってる。だから、テメェは口出しするんじゃねぇよ」
「……ふん。三矢谷瞬一一人いなくなるだけで、そんな状態になるとはな……脆いな、お前らの心は」
「なん……だと!!」
コイツ、今の一之瀬の状態を見て、そんなこと言ったのか!?
ふざけんじゃねぇよ……人の気持ちもしらねぇで!!
「たかが人が一人いなくなっただけじゃないか。そんなことで一々悲しんでいて、どうするんだよ」
「お前には分からないのかよ……自分にとって大切な存在をなくした人の悲しみが!!」
「……知らないわけじゃない。けど、そんなものはとうに捨ててる」
「捨てた……だと?」
「……これ以上は話をしても無駄だな。俺は行くぞ」
そういうと、由雪は勝手にどこかへ去ろうとする。
「ま、待てよ!最初に話しかけてきたのは、テメェの方じゃねぇか!!」
「……悲しむくらいなら、最初からそういう存在を作らずに、独りになればいいじゃねぇか……一之瀬春香」
「!!」
その言葉を吐き捨てると、由雪は何処かへ去って行った。
……俺はそんな由雪を追いかけようとしたが、すぐにそんなことをしても無駄だという考えに結び付き、踏み出そうとしていた右足を引っ込めた。
「……行くぞ、一之瀬」
「……」
相変わらず無言ではあったが、一之瀬は首を縦に動かして、肯定の意を表してくれた。
それを俺は確認すると、俺達はまた、部室に向かった。
心の中に湧き出てきた、煮え切らない怒りを閉じ込めて。




