呼び出し
Side真理亜
校長室に呼び出された私達は、今、扉の前に立っていた。
その間、私達は誰とも会話をしなかった。
一之瀬さんは教室の中同様に、どこを見ているのか分からない。
瞳の中に……光が見られなかった。
晴信はいつものような表情を浮かべてはいるけど、どことなくいつもよりも元気がなかった。
……後で聞いた話だと、晴信と細川さんは、三矢谷瞬一の、中学の時からの同級生らしい。
それはショックで休んでしまう細川さんの気持ちも分からなくはないわ……。
私だって、もし大和君があんな目にあったら……(°□°;)。
……それで、その大和は、
「……ん?どうしたんだい?」
「な、なんでもないわ……」
他の人と比べて、あまりショックを受けている様子はなさそうね。
……こういうことに慣れている?
いやいや、こんなことはそうそう起きることでもないし、大体慣れるものでもないわよね。
なら……どうでもいいと思ってる?
それもないわよね……大和君は他人想いの人だし(独断だけど)。
「……なぁ、俺達、何時になったら中に入るんだ?」
いい加減痺れを切らしたのか。
晴信がそんなことを言ってきた。
「何時までもこんな所で突っ立ってるのは時間の無駄だぞ。とっとと中に入っちまおうぜ」
「……それもそうだね。二人共、早く中に入ろう」
「え、ええ……」
「……」
私はなんとか大和君の言葉に答えることが出来た。
しかし、一之瀬さんは聞こえていないのか、返事もせず、ただその場に立っていた。
「……春香?」
ポンッと、大和君に肩を叩かれる一之瀬さん。
そして初めて、一之瀬さんは自分が呼ばれていることに気付いた。
「え?……あれ?」
「大丈夫?春香」
「あ、は、はい……」
どうやら一之瀬さんは、本当に何も聞こえていなかったようね。
今も、大和君に尋ねられても、何の事だかさっぱり分かっていない様子だもの。
「それじゃあ、中に入るか」
そう言って、晴信がコンコンとドアをノックする。
そして、校長室の中に入ると、
「……来たか」
校長先生が、椅子に座って待っていた。
「……こんにちは、校長先生」
私はとりあえず、校長先生に挨拶をする。
一方で、
「それで、俺達を呼び出した理由っていうのは、なんなのでしょうか?」
晴信が、先に話を切り出した。
……校長先生が、私達を呼び出してきたのは、恐らく昨日の話なのだろう。
晴信は多分、それを知ってて話を切り出したのだと思うわ。
「うむ。昨日の一之瀬春香の家での件なのだが……」
「!!」
一之瀬さんの体が、一瞬にこわばった。
……それだけダメージが大きかったのかもしれないわね。
「三矢谷瞬一が、昨日以降行方が分からなくなっているとの話を聞いてな」
「……はい。確かに瞬一は、昨日以降行方が分からなくなっています。俺達で探しましたが、どうにも……」
あの後私達は、懸命に捜索はした。
けど、それらしき人物の姿を見つけることは出来なかった。
見つかったのは……着ていた服の一部だけ。
「何でも、兄が悪魔にとり憑かれていたとかなんとか……」
「その通りです、校長先生」
大和君がそう返事をする。
すると校長先生は、目の前で組んでいた手を解き、椅子から立ち上がる。
「……我々の方でも、三矢谷瞬一の捜索願いは、警察に提出した。だが、この学校でも、三矢谷瞬一の捜索をしようと思っている……そこで、魔術格闘部と、剣術部合同で、捜索活動をしてもらえないだろうか?」
「……もちろんです。俺達も、全力を尽くして瞬一を救い出します!」
「うむ……心意気は結構だ」
納得したような表情で、校長先生は頷いた。
「……三矢谷瞬一は、私の大切な生徒だ。もちろん、君達も含め、だがな」
「校長先生……」
「……話は以上だ、帰ってよいぞ」
「「「はい!!」」」
一之瀬さんを除く全員がそう返事をすると、私達はすぐに校長室から出た。




