虚無感に包み込まれた教室
Side大和
次の日。
僕達は、いつも通りに学校にやってきた。
ただ、二年S組の教室に、空いている席が一つ出来あがっていた。
……いや、一つだけじゃない。
二つだ。
「葵か……」
一つは瞬一の席。
昨日どれだけ探しても……結局瓦礫の山から見つけ出すことが出来なかった。
一体どこに行ってしまったというのだろう……。
もう一つの席は、葵の席だ。
「葵まで休んじまうとはな……相当ショックだったんだろうな」
「……だね」
瞬一が行方不明になったことに、相当ダメージを受けたのだろう。
恐らく、今は学校に来れるような精神状態じゃないはずだ。
「んで、一之瀬の方は一之瀬の方で……」
「……」
晴信が、春香の席を指さす。
そこでは、無気力な表情を浮かべながら、虚空を見つめている春香の姿があった。
……こっちは、自分のせいで瞬一がいなくなったと思っているのだろうか。
……あの時春香が、春香の兄さんに捕まって、あんな状態にならなければ、瞬一は……。
そんなことを考えているのだろう。
「北条はあんまり様子変わらないのな」
「失礼ね……これでも精神的にきてるのよ。さすがに自分のクラスの人が突然いなくなったりしたら……ましてやそれが、最近一緒に行動することが多かった人となると……」
「北条……」
やっぱり、真理亜も虚無感に襲われているのか。
平気そうな顔をしてるけど、晴信もまた、いつもよりはその表情に光がなかった。
……瞬一の存在は、いつの間にかここまで大きなものに変わっていたのか。
ただのクラスメートがいなくなっただけならば、彼らもあまりショックは受けないだろう。
しかし、瞬一だからこそ……彼らが心に受けたダメージは大きいのだ。
「なぁ大和……」
「ん?なんだい?」
晴信が僕に声をかけてきた。
その声の方を振り向いてみると、真剣な表情を浮かべた晴信の姿があった。
「……葵のことなんだけどよ」
「今日葵の家に行って、学校に出させた方がいいのか?……でしょ?」
「……ああ」
僕が予想した質問で、どうやら合っていたみたいだ。
「答えは……今はそっとしておいてあげることだね。僕達が何を言ったとしても……残念ながら今の葵じゃ、恐らく会話もしてくれないと思うよ」
「会話もしてくれない、か……」
葵は瞬一を失ったことで、相当心にダメージを受けたことだろう。
だから、僕達がなにを言ったとしても……聞き入れてくれない、もしくはネガティブに捕えられてしまうかもしれない。
それで葵を更に傷つけたら……まるで意味がないじゃないか。
「何かしてやるのも友達守る……何もしてやらないのもまた友達、ってことか」
「僕達に出来ることはただ一つ……瞬一の帰りを、信じて待つことだけだ」
それしか僕達がやれることはない。
瓦礫の山から、瞬一は発見されなかった。
つまりは、どこかでまだ生きている可能性も、否定は出来ないのだ。
「お~い、席につけ!」
その時。
担任の先生が、教室の扉を開けて、中に入ってきた。
中に完全に入りきると、扉を閉めて、教壇の上に立つ。
出席簿と座席表を見比べながら……。
「今日は細川と三矢谷が欠席か……誰かこの二人が休んでいる理由を知ってるやつはいるか?」
先生は、僕達にそんな質問をしてきた。
しかし……答える人は誰もいない。
僕と晴信、真理亜に春香の四人は、その理由を知っているには知っているが……誰も話そうとはしなかった。
その時だった。
突然、コンコンと扉が叩かれる音が聞こえてきた。
その音に反応して、先生は教室の外にいる人と、少し話をしている。
すると……その顔は少し青くなっていた。
恐らく、瞬一のことについて、何か聞いたのだろう。
やがて、話を終えてから先生が言った一言は、
「……今連絡があった。三矢谷は、どうやら風邪で休んでいるだけのようだ。細川も同じだから、あまり心配する必要もないぞ」
そうは言っておきながら、顔は青ざめたままだ。
恐らく、瞬一が学校に来ていない理由を聞いたのだろう。
「それから、大和・一之瀬・宮澤・北条の四人は、この後校長室に来るように、以上だ」
やはりそうか。
もう瞬一のことが耳に入っているのだろう。
僕達を呼び出すのに必要な理由は……昨日の件以外に何もないのだから。




