決着の末に
「神の公正なる裁判にて、彼の者に正しき判決を下す」
「上級魔法を詠唱して、俺ごとこの場所を崩壊させるつもりか?けどな……長い詠唱を待っていられるほど、俺もお人よしじゃねぇんだよ!!」
右手を振りかぶり、瞬一に殴りかかろうとする。
だが、瞬一は、詠唱中にも関わらず、
「……!」
ヒョイ。
何と、その場所から動き、悪魔の攻撃をかわしたのだ。
「なっ……」
悪魔にとっても、これは驚きなことだ。
通常、詠唱中はその場から動くことが出来ないはず。
もちろん下級魔法等は走りながら等でも詠唱することが可能だが、階級が上になっていくと共に、動きに制限がかかるのだ。
「下された判決は有罪」
「なん……だと!!」
しかし、その場所から動いたのにも関わらず、瞬一はその詠唱を止めなかった。
さすがに悪魔も少し焦ってきたらしい。
「ちっ……鮮血と共にその命を散らせ!!」
先ほどと同じ攻撃を繰り出す。
だが、今度も瞬一はその攻撃をすべて避け切ってみせた。
「……人間如きがちょこまかとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「よってここに、神の雷にて裁きを下す!!」
瞬一の詠唱が終わる。
瞬間、悪魔の足元に、何個もの魔法陣が展開される。
地面のみではなく……屋上にも、空中にもだ。
「な、何だこの数の魔法陣は……あり得ない。人間が使う量の魔法陣じゃない!!」
悪魔がそう叫ぶのも頷ける。
瞬一はこの時、クラス分け試験の時に見せた時よりも、倍の魔力を送り込んでいるのだ。
だから魔法陣の量も、その時の倍であるのだ。
……だが、過度の魔力の使いすぎは、生命力の激しい浪費にも繋がる。
……つまりこれは、瞬一の生死の境界線を賭けた、本当の意味で最後の攻撃なのだ。
これを防がれると、瞬一の負けが決定する。
しかも、この術を詠唱し切る為に、さらに上級の技術を使ったのだ。
それが、詠唱中止。
詠唱の途中でそれを中断し、別の場所に移動した後、再び詠唱を再開するというものだ。
簡単なように聞こえるが、実はこの技術、魔力を相当消費するものなのだ。
だから、実戦の場に出たとしても、なかなかこれを使用する者が現れることはない。
「……言ったろ?俺は例えどんなことをしてでも大切な友達を助けるって……」
瞬一は、右手を振り上げて、そして。
「……人間の力を嘗めてると、後悔するってな!!」
悪魔に向かって叫び、瞬一はその術の名前を叫ぼうとする。
だが悪魔も、そう簡単に術を繰り出させるわけにもいかない。
次に自らに来るのは、神による裁きの雷だ。
だから、なんとしても直撃だけは免れたいのだ。
「させるかぁあああああああああああああ!!!!」
「……おせぇよ、悪魔」
「なっ……!?」
呪文の詠唱を止めようと、悪魔は瞬一に攻撃を仕掛ける。
だが……それには余りにも、2mという距離は長すぎた。
悪魔の攻撃が瞬一に届く前に、
「これで終わりだ!!……ジャッジメントスパーク!!!!」
その術の名前を叫び、勢いよく右手を降り下ろした。
瞬間。
ダァン!!という激しい音と共に、天井を突き抜けて、雷が落ちてきた。
それは、悪魔を中心にして、様々な部分に着弾した。
「ぐはぁ!!」
まともに落雷を受けた悪魔は、意識など保てるはずがない。
やがて悪魔は、『一之瀬辰則』の体から抜け出し、上空で消滅していった。
「……終わった。これで、すべてが解決したのか」
瞬一は、すべての出来事が終わったことに安心して、辰則が倒れている左側に、ゆっくり倒れ込む。
無茶をし過ぎたせいか、体に力が入らないのだ。
後は、疲れが取れるまでこの場所で眠った後に、ここを抜け出せばいい。
そんなことを瞬一は考えていた。
……だが。
「ん?……!!」
ピシッ。
何かが崩れそうな音がする。
……瞬一は即座に、ヤバいと感じた。
このままこの場所で眠っていると、崩壊するだろうこの部屋から抜け出せなくなり、最悪の場合、辰則と共に死ぬ。
先ほどの攻撃が、柱とかに当たり、魔方陣を壊しただけで済まなかったのだろう。
だが……分かっていても、瞬一は動かなかった。
否、動けなかった。




