嫌な予感
「……お前ら。本当にどこまでもうざい奴らだな。春香をこの状態から解放しやがって」
「……終わりだな。これでお前の目的は潰えた。後はお前を、一之瀬の兄から出して、それで終わりだ」
瞬一は、悪魔にそう宣言する。
しかし、悪魔はそれに動じない。
どころか、
「……ククク、クハハハハハハハハ!ヒャアハハハハハハハハハ!!」
「……何がおかしいんだ?」
突然笑いだした悪魔に、瞬一は疑問を抱く。
……目的は潰されたのにも関わらず、悪魔は未だに笑っている。
これが何を意味するのか、瞬一には理解出来なかった。
「“悪魔憑き”ってのはよぉ、こんなちんけなことで終わるような、そんなやつじゃねぇんだよ!」
「……気絶してんだ。すでにその状態は解かれているはずじゃ……」
「……“悪魔憑き”と言うのは、その本人が気絶するだけじゃ駄目なんだよ。儀式場を直接ぶち壊すなりなんなりしない限りには、解放されるわけねぇじゃねぇか!」
悪魔が言うには、“悪魔憑き”の状態から春香を解放するには、本人を気絶させるだけではなく、その儀式場自体を破壊しなければならないらしい。
すなわち……この場所を破壊しない限りには、春香は“悪魔憑き”の状態から解放されないということだ。
「成る程……この場所さえ破壊しちまえばいいって話か」
瞬一は、友人として、大切な友達を守りたいのだ。
その為なら……その命が例え消え去ることになろうと、どんなことでもするのだろう。
「……晴信、大和、葵、北条。一之瀬を連れてここから逃げろ」
「え?でも……」
葵は、瞬一が言ったことに対して、軽く疑問すら感じられた。
一対一で、悪魔とまともにやりあって勝てるわけがない。
そのことを、葵は感じていたからだ。
それ以上に……嫌な予感すら感じられたのだ。
このままこの要求を、素直に受け入れてしまえば……。
「……分かった。みんな、ここは瞬一の言う通り、逃げよう」
「……え?大和、君?」
「大和……おいおい、分かってるんだろ?瞬一一人で勝てる相手じゃねえこと位……」
「それでもだ。みんな、行くよ」
大和は、春香の体を抱えつつ、一同にそう声をかける。
真理亜は、流石に少し納得がいかない様子ながらも、大和の意見にはどうしても逆らえないらしく。
「……行きましょ」
「……ああ」
晴信も、とうとうその言葉に同意した。
「ちょっと待って。私はここに……」
「残るんじゃねえ!!」
ビクッと、葵の体は震える。
瞬一が叫んだことが、そこまで驚くことだったのだろう。
「……お前らを巻き込むわけにはいかねぇんだよ。だから、外に出て、安全な場所まで避難しろ」
「……う、うん」
半ば納得がいかないまでも、葵は瞬一の言葉に同意することにした。
「……早く行ってくれ。このままの状態を維持させるわけにもいかない」
その瞬一の言葉を聞いて、まずは春香の体を抱いた大和が部屋を出ていく。
その後を、真理亜・晴信・葵の順番で、部屋を出た。
残ったのは、魔方陣が至るところに描かれた部屋と、対峙している、瞬一と、一之瀬辰徳の中に入っている悪魔のみとなった。
「……今さらどうするつもりだ?俺を相手に、束になっても勝てないような人間が、たった一人で挑もうなんて、お前、正気か?」
「ああ、俺は至って正気だよ。勝負の勝ち負けなんて、俺の命なんてどうでもいい……俺は、大切な友達助ける為なら、なんだってしてやるよ!」
悪魔の方を向き、瞬一はそう宣言する。
対する悪魔は、そんな瞬一の態度に対して、呆れた笑いすら浮かべていた。
「人間ごときに……俺が殺せるとでも思えるのか?」
挙げ句の果てには、そう挑発すらしてみせたのだった。
しかし、瞬一はその挑発に乗らない。
「……言ってろ。あんまり俺達を嘗めたりしてると、後悔するぞ」
「……面白い。なら、どんな小細工を見せてくれるってんだよ!」
ダン!
悪魔は、地面を思い切り蹴り、急速に瞬一に近づく。
しかし、それにも関わらず、瞬一は、呪文の詠唱に入った。




